止まれない男たち──「片思い」と「生きる意味」

往復書簡という形で作家のミシェル・ウエルベックとも共著を出したことがある哲学者ベルナール=アンリ・レヴィに『危険な純粋さ』(邦訳、紀伊國屋書店)という本がある。これ自体はユーゴスラビア紛争やイスラム過激派について扱った批評エッセイだが、タイ…

坪内祐三×西村賢太 「対談 ダメ作家グランプリ」

「本の雑誌」2015年12月号では、「太宰治は本当に人間失格なのか?」という特集を組み、西村賢太と坪内祐三による「ダメ作家グランプリ」と題した対談を掲載している。坪内と西村は共に日本近代文学に造詣が深いから、今回の特集にはうってつけの人選…

『憂国』という戦略

1 三島由紀夫が監督を務めた映画『憂国』は、一九六六年に日本ではATG系列で公開された(ちなみにブニュエルの『小間使の日記』との併映だった)。映画は自身が書いた小説「憂国」を原作にしており、物語の背景には二・二六事件が使用されている。簡単に…

佐伯彰一 『批評家の自伝』

アメリカ文学者で批評家・翻訳家の佐伯彰一が死んだ。佐伯は1950年頃ウィスコンシン大学のフレデリック・J・ホフマンのもとでニュークリティシズムを学んだこともあったが、自伝・伝記を重視し、それらを紹介するようなエッセイを多数書いた。私もいく…

ブログ記事がグーグル検索でトップに表示されるようになる方法教えます

ブログを始めて数年、俺はついに気が付いてしまった。 ブログの記事がどうやったらグーグル検索でトップに表示されるようになるか、ということを。 答えは至ってシンプルだ。 「めちゃくちゃマイナーなことを取り上げる」 これだ。 例えば、俺はマーティン・…

たったひとりで運動するということ──スポッチャ体験記

僕は自他ともに認めるオタクだが、運動は嫌いではない。嫌いなのは団体でやるスポーツだ。だから、卓球とかはかなり好きで、中学の時学校の近くにある公民館みたいなところでよくやっていた。今はバッティングセンターに通うことが多い。それで、都内のバッ…

ロバート・ホワイティング 『メジャーリーグ とても信じられない話』

『菊とバット』や『東京アンダーグラウンド』といった著作で知られるロバート・ホワイティングが、メジャーリーグの裏側について解説した本。2008年に出版されたもので、「面白くてためになる」という言葉がぴったりくるほどの良書だと思う。 本書では「…

「Wanda Wultz」と日本語

Youtubeで適当に音楽を漁っていたら、Venusというベルギーで結成されたロックバンドの『Vertigone』というアルバムが出てきて、聞き流していたら、「Wanda Wultz」という曲に差し掛かった時、日本語が聞こえてきた。ちなみにこれがその曲である。 Venus - Wa…

ジェレミー・リード 『ワイルド・サイドの歩き方 ルー・リード伝』

ニューヨークの暗部を歌い尽くした男、ルー・リード。彼の人生を総括した本が、詩人・小説家であるジェレミー・リードの手によって著わされた。「俺は誰よりもルー・リードらしく振る舞える」とうそぶき、自らを積極的に「偶像化」した彼の真の姿を、本書に…

スタジオ・ボイス 2008年3月号 次世代【オルタナティヴ・ミュージック】ランキング100!!

オルタナといっても90年代の ポスト・グランジを指すのではない。 70年代後半に種を蒔かれた”もうひとつの”音楽は 80年代の”実験の夜”を通り過ぎ 90年代にエディットされ いまではカルチャー全般に横たわる規範となった。 そして00年代。細分化の…

映画の中の「文学」にまつわるミス

若松孝二の『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』を見ていたら、『英霊の聲』が河出書房から出版されて売れているという話が出た後に、ノーベル文学賞の話題に移るというシーンがあった。そこで三島役の井浦新が「なにしろ谷崎さんも候補になっていますか…

『サバービア─反逆のパンク・ロック』の思い出

今はもう閉館してしまったシアターN渋谷というミニシアターに、高校生の頃、音楽のドキュメンタリー映画をよく観に行っていた。当時は、パンク・ロックに強い関心を持っていて、80年代アメリカのパンク・シーンを描いた『アメリカン・ハードコア』を観に行…

マドレーヌ・シャプサル編 『恋する手紙』

山本耕史が堀北真希に数十通の手紙を送ったというニュースを見て、文芸誌「エクスプレス」のスタッフとして数々の作家にインタビューを行い、後に自身も作家となったマドレーヌ・シャプサルが編集した『恋する手紙』という、前から気になっていた著作を読ん…

クイック・ジャパン 1994年Vol.1 小沢健二×鶴見済

『クイック・ジャパン』創刊号は1994年8月にに刊行された。その前年に出た創刊準備号は、当時飛鳥新社の編集者だった赤田祐一が自腹を切って刊行にこぎつけたものだった(社長からは「俺にはひとつもわからねえ」と言われたらしい)。創刊号からは版元…

テイラー・ハックフォード 『愛と青春の旅立ち』

top.tsite.jp T-siteの映画のコーナーに『愛と青春の旅立ち』のレヴューが掲載されました。 愛と青春の旅だち [DVD] 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン 発売日: 2014/09/10 メディア: DVD この商品を含むブログ (2件) を見る

「村上春樹」というイメージ

村上春樹は『羊をめぐる冒険』で、「右翼の大物」なる人物を登場させていたけれど、今、自分が社会的に大きな影響力を持っていることについてはどう思っているのだろうか。何せ、小説内で用いたクラシック音楽を、ベストセラーにすることができるぐらいだ。…

SST Records マイナー作品紹介②

V.A. 『The Melting Pot』1988年 これは、Dave Markeyというインディーズで活躍している映画監督が企画したアルバムで(彼は後に『1991: The Year Punk Broke』を撮った)、収録されている曲は全てカバー。一部はMarkeyの映画に使われているようだ。 全体的…

SST Records マイナー作品紹介①

高校時代にBlack Flagを聞いて以来、SSTの作品を少しずつ集めてきた。SSTのCDを買うと中にカタログが入っていることがあって、ボクはそれを眺めるのが結構好きだ。中にはカセットでしか販売されていない商品もある。SSTの公式サイトは過去の作品をあまり取…

『五分後の世界』の元ネタと龍と蓮實の微妙な関係

「残酷な視線を獲得するために」と題された村上龍と蓮實重彦の対談(初出は「ユリイカ」臨時増刊「総特集 村上龍」青土社、1997年)で、村上は『五分後の世界』がメイラーの『裸者と死者』に影響を受けたことを明らかにしている。 僕は、ノーマン・メイラー…

R・W・ファスビンダー 『エフィー・ブリースト』

15日に、アテネフランセ文化センターで観たが、あまり関心しなかった。ファスビンダーの問題というよりかは、フォンターネの原作がどうしよもうなく古びているのだと思う(トーマス・マンは絶賛し、ベケットは『クラップの最後のテープ』で言及しているが…

ロッキング・オン・ジャパン 1996年4月号 巻頭大特集 小沢健二!

家の本棚を漁ったら、『ロッキング・オン・ジャパン』1996年4月号が出て来た。表紙は小沢健二の顔のどアップで、彼のインタビューが巻頭に置かれている。「レヴュー96」と題されたツアーに入る直前に行われたインタビューなので、まずはライブの話題…

ヒップかスクウェアか メイラーのリスト

このブログのアクセス解析を見たら、ノーマン・メイラー関連で訪問する人が多いので、参考までに『ぼく自身の広告』に所収されている「リスト」というのをここに引用してみたいと思う。これは何がHipで何がSquareかということを、メイラー自身が分類したもの…

『自由の代償』と『すべての男は消耗品である』

村上龍のエッセイ『すべての男は消耗品である』を読んでいたら、市原悦子主演の単発ドラマ『現代人妻戯画』を扱ったところがあって、そのドラマというのが、市原演じる主婦が金田賢一演じる売春夫を買うというもので、彼女は金田の関心を繋ぎとめ続けるため…

サンドウィッチマン 『敗者復活』

サンドウィッチマンがお笑いコンビの中で一番好きかもしれない。ネタは当然面白いと思っているし、あと、強面だけどガツガツ前に出ていかないというか、与えられた仕事を確実にこなす職人的なところに魅かれているのかも。 それで彼ら二人のパーソナリティに…

黒歴史&お蔵入りアルバム一覧

一度は正式にリリースされたものの、後にミュージシャン本人によって否定されたアルバムというのが、世の中にはいくつかある。また、様々な理由によってお蔵入りし、後になってリリースされたものもある。ここではその両方を簡単に紹介しよう(随時追加中)…

SALE2編 『五人十色』 村上春樹インタビュー

今はもうなくなったと思うんだけど、昔フィクション・インクという出版社があって、ラリー・クラークの『KIDS』とかを出版していた。サブカルチャーに強く、『ロッキング・オン』に求人の広告を出していたのを覚えている。 フィクション・インクは『SALE2』…

『青髭八人目の妻』と『じゃじゃ馬ならし』

エルンスト・ルビッチの『青髭八人目の妻』を観たら、『じゃじゃ馬ならし』に引っ掛けたギャグ(利かん気な妻であるクローベット・コルデールに悩まされていたゲイリー・クーパーが、『じゃじゃ馬ならし』を読み、そこからヒントを得て、彼女を手懐けるべく…

『カラビニエ』の元ネタ

ゴダールの『カラビニエ』の元ネタ。 www.youtube.com そして、これがそのネタを使ったシーン。(4分7秒あたり) www.youtube.com 興奮した観客がスクリーンを引きずり下ろすという些細なものだが。 カラビニエ [DVD] 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売…

ナサニエル・ウェスト 『クール・ミリオン』

まだ、全体の4分の1程度(3月25日時点)読んだところだが、ちょっと、ウェストのこの作品はひどすぎる。 分類するなら、ブラック・コメディということになるのだろうが、ヒロインの設定や地の文があまりにも低劣すぎるのだ。 なにしろ、ヒロインは冒頭数十ペ…

『女子の生きざま』が連載されていた雑誌

リリー・フランキーのエッセイ集『女子の生きざま』は、元々雑誌に連載されていた物をまとめているのだが、その肝心の雑誌の名前が、僕の持っている新潮OH!文庫版には記載されておらず、長年気になっていた。それで、ちょっとネットで調べたら、この人のペー…

小谷野敦 『 江藤淳と大江健三郎: 戦後日本の政治と文学』

江藤淳と大江健三郎は、同時期に同世代として文壇に登場し、批評家と小説家、右翼と左翼という立場から、極めて対照的な存在として、比較され、批評されてきた。だが、本書は、そうした思想による対比だけではなく、二人の生い立ちから江藤の自殺を経て現在…

『プレイタイム』の見方

これまで観てきた映画の中でワースト1を選ぶとしたら、ジャック・タチの『プレイタイム』になる。「虚無」という言葉がこれほど相応しい映画も中々ない。「退屈」、その一言に限る。これを通しで全部見るなら、蟻の行列を眺めている方がはるかにましだ。 確…

中牧昭二 『さらば桑田真澄、さらばプロ野球』

本書は、カドヤスポーツで販売促進課長を務めていた中牧昭二が、スポーツメーカーとプロ野球界の癒着について暴露したもので、発売当時はかなり話題になった。元々最初の告発は「週刊現代」誌上で行われたのだが、それ以降も「プロ野球界の体質は一向に改善…

『前略 小沢健二様』

本書は『クイック・ジャパン 』Vol.5(1995年)の企画「拝啓・小沢健二様もしくは……どーしちゃったのさ、オザケン!?」を、増補して書籍化したものだ。「800円本シリーズ」の一冊でもある。 小沢の同級生、元バンド・メンバーらに取材した「同級生10…

デヴィッド・クローネンバーグ 『マップ・トゥ・ザ・スターズ』

さて、物語の中に、精神分析医や心理学者が出てきた場合、我々はそこに「始まり」を見出す。つまり、物語の根幹となる諸要素が、トラウマという形で、断片的/非論理的に彼の患者の口から洩れることを知っているからであり、以降、その物語が患者の語った言…

江藤秀一編 『晩年にみる英米作家の生き方』

図書館検索で蔵書を調べていた時に、たまたま見つけた一冊。この本を読むまで「港の人」という出版社のことは全然知らなかったのだが、鎌倉にあって文学関係の本をぽつぽつと出しているらしい。 本書はタイトルの通り、著名な英米作家の「晩年」に焦点をあて…

ヒルダ・ドゥリトル 『フロイトにささぐ』

巻き上がれ、海よ── お前のとがった松の木を巻き上げよ、 お前の巨大な松の木を、こちらの岩に はねかけよ、 お前の緑をこちらに投げつけて、 お前の樅の水たまりで蔽いつくすがいい。 「山の精」 H.D. 川本皓嗣訳(『アメリカ名詞選』岩波文庫、1993に…

フォルカー・シュレンドルフ 『バール』

ブレヒトの同名戯曲を映画化した、シュレンドルフ監督の『バール』を見終えて、まず胸に浮かんだのは、「陰惨」という言葉だった。主演は、当時頭角を現しつつあった、R・W・ファスビンダー。彼は、バールという名の、新進気鋭の詩人を演じている。冒頭、…

盗作魔Circle Jerks

元ブラック・フラッグ、キース・モリスと元レッド・クロスのグレッグ・ヘトソンが中心になって結成したパンク・バンド、サークル・ジャークスは他バンドの曲を拝借することで有名だった。『アメリカン・ハードコア』の中から、ジェフ・マクドナルドとマイク…

タマ・ジャノウィッツ 『ニューヨークの奴隷たち』

本作は、81年に長編小説『アメリカン・ダッド』でデビューした、タマ・ジャノウィッツが86年に発表した短編小説集で、彼女の出世作でもある。デビュー以降、鳴かず飛ばずの時期を送っていた彼女だったが、『ニューヨーカー』に短編「ニューヨークの奴隷…

『イアン・ブルマの日本探訪』と『病む女はなぜ村上春樹を読むか』

イアン・ブルマの『イアン・ブルマの日本探訪』には、「村上春樹 日本人になるということ」という、村上へのインタビューをもとにして構成した記事がある(初出は『ニューヨーカー』1996年12月23日号)。個人的なこと、特に家族について詳しく語りた…

Black Flag  『The Complete 1982 Demos』

Damaged Released: 1981 12月 My War Released: 1984 3月 Family Man Released:1984 9月 Slip It In Released: 1984 12月 Loose Nut Released: 1985 5月 In My Head Released: 1985 10月 上に掲げたのは、Black Flagのディスコグラフィの一部だが、気になる…

南沢奈央と握手会

握手会というのにこれまで人生で一回だけ行ったことがある。 大学2年の時、たまたま深夜にテレビをつけたら『コレってアリですか?』という番組をやっていた。日常で遭遇するようなちょっとしたむかつく出来事を、芸人や俳優がコント形式で再現するバラエテ…

シネマ・ハンドブック 2012

ツタヤの店舗などで売られている、映画のガイドブック。今はどうだか知らないけれど、昔はたしか200円分のTポイントと交換だったような気がする。 中身は、2011年の売れ筋を紹介した「洋画トップ50」、「邦画トップ20」や著名人が簡単な解説をつ…

周防正行 『舞妓はレディ』

周防正行監督作『舞妓はレディ』の公式サイトを見ると、「監督コメント」の項で、周防自身が、本作品の骨格について、「ファンタジー」、「エンタテイメント」という言葉を使い、簡単に説明している。ここでいう「エンタテイメント」とは、「建て直し」のこ…

『芥川賞について話をしよう 2010年下期~2013年下期』読者書評

週刊読書人 2014年9月5日号に掲載されました。 週刊読書人2014年9月5日号◇座談会=小谷野敦・栗原裕一郎対談 ―芥川賞について話をしよう第六弾<文学はこのまま壊びゆく運命にあるのか> 週刊読書人2014年9月5日号◇座談会=小谷野敦・栗原裕一郎対談 ―芥川賞…

今野裕一 『ペヨトル興亡史─ボクが出版をやめたわけ』

ペヨトル工房が2000年に解散した時、俺はまだ小学生だったから当然リアルタイムでは接していないのだが、ウィリアム・バロウズやJ・G・バラードの翻訳書を出していたという事で後にその名前を知った。『夜想』や『WAVE』が取り上げていたことと、…

スティーヴ・エリクソン 「わが生涯の愛読書」

『リテレール』1992年冬号より引用。副題は「私の考えを変えたフォークナー、ミラー、ディラン」。文章は柴田元幸が翻訳している。以下リスト。 『アラビアン・ナイト』(岩波文庫) レスター・バングズ『サイコティック・リアクション・アンド・キャブ…

中村真一郎 「わが生涯の愛読書」

ここでも紹介した『リテレール』1992年冬号からのリスト。副題は「これまでに読んだ何万冊からの、とりあえずのベスト」。中村は「ひとりの著者からは一冊」という原則に基づき、リストを作っている(ところどころ出版社名が抜けているのは原文ママ)。 …

山田風太郎の愛読書

前回紹介した『リテレール』1992年冬号からの引用。副題は「勉強のためではなく、現実逃避のための読書」 モーム『人間の絆』全四巻(新潮文庫) モーム『月と六ペンス』(新潮文庫) ユゴー『レ・ミゼラブル』全七巻(岩波文庫) デュマ『モンテ・クリ…