豊田泰光 『サムライたちのプロ野球』

 本書は、61年に巨人の監督に就任した川上哲治を批判することから始まる。川上は就任一年目に、ドジャース管理野球を取り入れ、チームを優勝に導いた。しかし、それがプロ野球から「個」の魅力を消してしまったと豊田は主張する。そして、今では現場を知らない人間が増え、プロ野球界は小さくまとまってしまった。豊田はそんな状況を改善すべく、様々な提案を本書の中で行う。巨人(ナベツネ)批判から始まり、セ・パ交流戦の実施、GM制度の充実、長嶋茂雄ののコミッショナー就任といったことなどだ。この本は2003年に出版されたものだが、セ・パ交流戦やGMを重視するといったことは、後に実際に受け入れられた。

 だが、本書の読みどころは、そういった改革話よりも、過去のプロ野球選手、もしくは野球界の揉めごとについて忌憚なく語っているところにあるだろう。前者は豊田の得意なネタだ。西鉄の監督三原、選手時代の仰木、稲尾、杉下、長嶋に関するエピソードはどれも面白い。彼らが豊田的に言えば「個」を失う前の選手ということになるのだろうか。基本的に「今の若者は」的調子で書かれているので、苦笑するようなところもあるが、そこはご愛嬌ということで。そういった意味で今一番嫌われているのは張本だろうが、本書の中では、イチローの実力を素直に認めようとしない、ということで豊田から批判されている。

 後者の揉めごとの方では、広岡達郎がシドニーオリンピック野球日本代表に就任しなかった経緯や『プロ野球ニュース』をめぐる豊田とフジテレビの間のトラブルについて書かれたところなどが、読み応えがある。そういう球界やスポーツ番組の裏事情については、死後「遺書」という形で、出版社から詳細な暴露本を出すつもりだと本書で豊田は言っているが、どうなるのだろう。