矢崎良一編 『元・巨人』

 スポーツライターの矢崎良一が、トレード・解雇・人的補償などによって巨人から放出された有名選手についてまとめた本。一部の選手は「独白」という形式で、放出時の心境について語っている。巻頭には巨人から放出された選手のリスト(2009年11月27日現在)付き。

 本書で取り上げられている選手は、小林繁二岡智宏仁志敏久駒田徳広清原和博工藤公康石毛博史木田優夫岡島秀樹吉岡雄二大森剛清水隆行河原純一川相昌弘香田勲男

 プロローグで著者が書いているように、日本ではトレードに対しネガティブなイメージがついている。出される選手にしても、「懲罰人事」という思いが頭をよぎることがある。だが、一方では「出場機会を得られる」という意味で、で出されたことに感謝している選手もいて、放出といってもそれに対する考え方は千差万様だ。小林繁は「空白の一日」というスキャンダルに巻き込まれた形だが、意外と放出については冷静に受け止めていたようで、マスコミの騒ぎっぷりを見て、「あぁ、これは(注:野球を)やめてもじゅうぶんメシは食っていけるな」と思ったとのこと。

 あと、小林はこの取材が行われた当時、近鉄のコーチを務めていたのだが、試合中の心理について説明しているところで、キャッチャーの的山を例に出し、「同じ打率2割3分でも、自分のチームの選手よりよその選手のほうが必ずよく見えるものなの」と発言したのはおかしかった。

 駒田が本書のなかで「原の4打席連続三振は、誰かの一生の記憶に残るかもしれない」と言っているが、巨人はそうしたスーパースターを常に生み出してきた球団だった。最もマスコミに注目される球団として、選手たちは多かれ少なかれ「巨人」に在籍していることに特別な意識を持つ。自分が派手な選手ではないと思っていても、「巨人」にいるというだけで、特殊な意味を持ってしまう。そういった所から他球団へ移籍するというのは、見えていた景色が180度変わるというものだ。小林も「ジャイアンツから来た選手というのは、どうしても勘違いをしている部分があるんですよ」と言っている。本書では、景色が変わることについての、困惑や喜び、苦悩などが描かれている。

 

元・巨人 (廣済堂ペーパーバックス)

元・巨人 (廣済堂ペーパーバックス)