Black Flag  『The Complete 1982 Demos』

Damaged Released: 1981 12月

My War Released:  1984 3月

Family Man Released:1984 9月

Slip It In Released: 1984 12月

Loose Nut  Released: 1985 5月

In My Head Released: 1985 10月

 

 上に掲げたのは、Black Flagディスコグラフィの一部だが、気になるところがないだろうか。よく見ると、ファースト・アルバム『Damaged』とセカンド・アルバム『My War』の間に、2年以上の月日が挟まれているのに、『My War』が発売された年には、一気に3枚もアルバムがリリースされているのだ(ライブ盤やコンピレーション、シングルは抜かした)。これはかなりいびつな販売の仕方だが、Black Flag側にも事情があった。

 彼らは1982年末から、提携していたレコード会社ユニコーンと裁判になり、その結果、新作の販売が裁判所から禁止されてしまったのだ。そうした状況下だったので、コンピレーション・アルバム『Everything Went Black』(1983年)をリリースする際、ジャケットからバンド名を消すという措置をとったが、裁判所にばれ、Greg GInnとChuck Dukowskiは5日間刑務所に入ることになった。

 アルバムのリリースは禁止されていたが、曲作りは続けられた。その成果の一部が海賊版である『The Complete 1982 Demos』の中で聞ける。参加したメンバーは、Greg Ginn、Henry Rollins、Dez Cadena、Chuck Dukowski、Chuck Biscuits。このデモは、恐らく1982年の12月に録音されたものだ*1。アルバムの収録曲は以下の通り。

1 What Can You Believe
2 Yes, I Know
3 Slip It In
4 Modern Man
5 My War
6 Black Coffee
7 Beat My Head
8 I Can't Decide
9 I Love You
10 Nothing Left Inside

 

 これを見る限り、82年の時点ですでに、『My War』(1984年)、『Slip It In』(1984年)『Loose Nut』(1985年)の収録曲の一部が出来ていたわけだ。『Damaged』から『My War』の間に長いブランクがあるせいで、発売日だけ見ると、ブラック・フラッグの作風がいつ変化したのかわかりにくいが、このデモの存在によって、82年の終りには完全に方向性が定まっていたことがわかる。

 注目したいのは、この時ギターにまだDez Cadenaがいたということ。つまり、「Slip It In」や「My War」、「Modern Man」といった曲は、元々ギターが二人いることを想定して書かれた曲なのだ。逆に、『Damaged』に収録されている曲のいくつかは、ギターが一人であることを想定して書かれたものだったが、GinnとDukowskiがヴォーカルを務めていたDez Cadenaにリズムギターへ転向するよう申し渡したので(元々彼はRedd Krossのギタリストだった)、ギター二人編成の録音となった。Cadenaがパートを変えなければ、Rollinsの参加も当然なかった。

 結局、83年にCadenaが脱退して以後、Black Flagは新たなギタリストを入れることなく、4人組の体制で解散まで突っ走ることになるが、サイドギター問題がGinnの中で解消されることはなかったようだ。デモでベースを弾いていたDukowskiも、ベーシストとしての技術的な問題から脱退することになり、『My War』の録音には参加していない。

 84年の春になり、ようやくユニコーンとの訴訟に片が付き、新作を発表できるようになった。Joe Carducciによれば、82年から84年の春までに、『In My Head』に至るまでの曲は出来ていたらしい。それならば、84年から85年にかけての新作ラッシュは納得できる。また、Ginnが恐れていたのは曲のアイデアを盗作されることだったので(実際、初期のCircle JerksはBlack Flagの曲を丸パクリしていた)、ライブで披露する前にアルバムをリリースしたいという思惑もあっただろう。

 デモについてもう一つ。上に引用した収録曲の中で、最初の2曲だけが、Black Flagの公式アルバムに収録されていないが、この二つはDez Cadenaによる作曲で、彼がBlack Flag脱退後に結成したDC3のファースト・アルバムの中で使われている。「What Can You Believe 」は「I Believe It」に、「Yes, I Know」は「 Ain't No Time Here Now」に名前を変えている。

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*1:元DOAのドラマーのChuck Biscuitsがブラック・フラッグにいたのは1982年の7月から12月まで。そして、デモの収録が終わってすぐにBiscuitsは解雇されたと『アメリカン・ハードコア』の中でスティーブン・ブラッシュが書いているので、それを総合するとデモの収録時期は12月頃ということになる