黒歴史&お蔵入りアルバム一覧

 一度は正式にリリースされたものの、後にミュージシャン本人によって否定されたアルバムというのが、世の中にはいくつかある。また、様々な理由によってお蔵入りし、後になってリリースされたものもある。ここではその両方を簡単に紹介しよう(随時追加中)。

 

John Frusciante 『Smile From the Streets You Hold』1997 

 レッド・ホット・チリ・ペッパーズを脱退したジョン・フルシアンテが、 『Niandra Lades and Usually Just a T-Shirt 』に引き続き、宅録で作ったセカンド・アルバム。薬物中毒が一番ひどい時期に録音されたもので、中身はぐちゃぐちゃ。思いつくがままに叫び、思いつくがままにギターを弾いている。あと、薬の影響で歯が無いから、発音もどこかもごもごとしている。爆音でかけたら、近所の人に気味悪がられること間違いなし。後に「薬を買うために出した」と否定され、廃盤になったまま再発されていない。

Smile From the Streets You Hold

Smile From the Streets You Hold

 

 

Bad Religion 『Into the Unknown』1983

 パンク・バンド、バッド・レリジョンが出したセカンド・アルバム。キーボードが全面的にフィーチャーされているうえ、7分にも及ぶ組曲まであって、一般的なパンクとはほぼ真逆の作風。スティーブ・ブラッシュは『アメリカン・ハードコア』の中で、「スティクスやジャーニー風のアリーナ・ロック」と形容している。前作の激しいパンク・サウンドからわずか1年ちょっとで路線変更したのは、グレッグ・グラフィンによれば「若気の至り」だったとか。前作で獲得したファンは、この作品で一気に消えた。レコードでリリースされたきり、一度もCD化されていないが、2010年にレコードによる過去作品のボックス・セットが発売された際、『Into the Unknown』も収録され、ファンを驚かせた。 

Bad Religion 30th Anniversary Box Set [12 inch Analog]

Bad Religion 30th Anniversary Box Set [12 inch Analog]

 

 

The Style Council 『Modernism: A New Decade』1998

 スタイル・カウンシルの5作目のアルバムとして1989年に録音されたが、レコード会社から発売を拒否されお蔵入りした。バンドはそのまま解散。ハウスに影響を受けた作風だが、88年のアルバム『Confessions of a Pop Group』やシングルとしてリリースされた「Promised Land」にも、その萌芽は既に表れていた。

 98年にBox Setの中の一枚として初めて公式にリリースされると、2001年に日本限定でCD化された。 

モダニズム:ア・ニュー・ディケイド

モダニズム:ア・ニュー・ディケイド

 

  

 The J. Geils Band 『You're Gettin' Even While I'm Gettin' Odd』1984

「堕ちた天使」のヒットで知られる、J・ガイルズ・バンドの現時点でのラスト・アルバム(通算では14枚目にあたる)。ガイルズ・バンドの曲は、キーボードのセス・ジャストマンとヴォーカルのピーター・ウルフの共作によって作られてきたが、83年に音楽性の違いからウルフが追放され、『You're Gettin' Even While I'm Gettin' Odd』ではジャストマンが曲作りの中心になった。

 しかし、売上・批評ともに振るわず、バンドは85年に活動を停止(99年から何度か再結成している)。このアルバム、現在ではバンドのディスコグラフィー上から抹消され、一度も再発されていない。Discogsによれば、当時日本でだけCD化されたらしい。↓はレコード。 

You're Gettin' Even While I'm Gettin' Odd

You're Gettin' Even While I'm Gettin' Odd

 

 

Ramones 『End of the Century』1980

 フィル・スペクターがプロデュースしたことで有名なアルバム。映画『ロックンロール・ハイスクール』と並行して作られた。

 この作品に文句を言っているのは、ベースのディー・ディー・ラモーン。彼曰く、「あのアルバムには最悪のクズが入ってる。最悪の俺が出ちゃってるよ」とのこと。スペクターは、このアルバムの製作に延々と時間をかけ、結果的に数千万円もの費用がかかったが、その労力に見合うほどアルバムが売れることはなかった。 

エンド・オブ・ザ・センチュリー+6

エンド・オブ・ザ・センチュリー+6

 

 

Red Hot Chili Peppers 『The Red Hot Chili Peppers1984

 レッチリのファーストアルバム。制作中、ラジオ向けの音を目指したプロデューサーのアンディ・ギルと荒い音作りを目指したバンド側(アンソニー・キーディスとフリー)が衝突。怒ったフリーがクソをピザの箱に入れギルに届けた、というエピソードは、レッチリの歴史を語る上で今では欠かせないものになっている。

 バンドの中心メンバーの一人だったヒレル・スロヴァクがレコーディング前に脱退したため、オーディションでジャック・シャーマンというギタリストを選んだが、アンソニー曰く「オタク」。技術はあったがレッチリのフィーリングに馴染むことはなく、レコーディングでもアンディ側についていたという。彼が脱退したのも当然の流れだった(後に、ヒレルが復帰)。 

Red Hot Chili Peppers

Red Hot Chili Peppers

 

 

Lou Reed 『Metal Machine Music』1975

 ルー・リードのソロとしては5枚目にあたる本作。前作の『Sally Can't Dance』は、アメリカのチャートで10位につけ、商業的に成功したアルバムとなったが、そのことが生来の反骨精神に火を点けたのか、リードはヴォーカルの一切ない54分のノイズ・アルバムを作ることで、ファンや評論家を挑発した。

 アルバムの制作に影響したのはドラッグ、ラ・モンテ・ヤング、アリス・ベイリーだとされている。レコードのライナーノーツでは、イギリス薬局方とスピードの分子構造が参照されていた(ジェレミー・リード『ワイルド・サイドの歩き方 ルー・リード伝』)。

 批評家からは酷評され、RCA(レコード会社)は、アルバムを回収したが、リード自身はこの作品にかなりこだわりを見せていたようだ。後に、早すぎたノイズ・ミュージックとして評価されるようになった。 

Metal Machine Music

Metal Machine Music

 

 

Thurston Moore 『Demolished Thoughts』2011

 ソニック・ユースのヴォーカル・ギターとして活躍し、オルタナ系のミュージシャンに大きな影響力を持つサーストン・ムーアが、2011年にリリースしたサード・ソロアルバム。

 ベックがプロデュースしたことで有名だが、実は本作を録音中、サーストンは編集者の女性と不倫しており、そのことが原因で妻のキム・ゴードンと大いにもめていた。そうした最悪の状態で作ったせいか、サーストン本人は「このレコードをどうすればいいかさえわからない。森の中に歩いていって消えてしまいたい気分」とゴードンに語ったという(『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』)。発売を遅らせるという話も出たが、結局サーストンが宣伝に一切協力しないという形でリリースされた。

 ゴードンはこのアルバムについて「青くさい、自分のことで頭がいっぱいの、音による短い遺書のコレクションのようだった」と前述の自伝の中で書いている。二人はその後離婚し、ソニック・ユースも解散した。 

Demolished Thoughts

Demolished Thoughts