SST Records マイナー作品紹介①

 高校時代にBlack Flagを聞いて以来、SSTの作品を少しずつ集めてきた。SSTのCDを買うと中にカタログが入っていることがあって、俺はそれを眺めるのが結構好きだ。中にはカセットでしか販売されていない商品もある。SSTの公式サイトは過去の作品をあまり取り上げていないので(廃盤になっているからだろう)、紙のカタログを見て「昔はあのアーティストのアルバムも出していたのか」と気付くことが多い。気になったものは、Discogsで検索する。

 SSTはデジタル販売にも乗り出していて、iTunes StoreAmazonなどに曲を配信している。デジタル販売の利点は、フィジカルだと採算が取れない物でもデジタルなら手軽に売れるという点にあるが、なぜかSSTの配信はかなり抜けが多く、特に80年代から90年代前半にリリースされたマイナーな作品はほとんどない。権利の問題なのか、それとも、マスターテープを紛失したとか……。SSTは事務的なことで、アーティストと色々トラブルを起こしているので、あまり信用ならないのだ。

 とにかく、廃盤になっているうえ、デジタルでも手に入らないものは、中古CDで手に入れるしかない(カセットやレコードまではさすがに集める気にならないが)。そうやって、社会人になってからも、ちょっとずつデジタル販売されていないSSTのマイナーな作品を集めてきた。それを今回簡単に紹介しようと思う。

 

Poindexter Stewart 『College Rock』1993年

 アルバムのタイトルからして悪意が漂っている。これはBlack Flagのギタリスト、グレッグ・ギンが変名で出したEP。収録曲はわずか4曲で計10分。ベースとギターはギンが弾き、ドラムはギンのソロアルバムにも参加しているDavid Raven。ヴォーカルのクレジットはPoindexter Stewart名義になっているが、Dale Nixonと同じでギンの変名だろう。NirvanaSoundgardenといったグランジ系アーティストのレコーディングに携わってきたSteve Fiskが、エンジニアとして一曲目の「College Rock」に参加している。プロデューサーはギン自身がつとめ、子供の落書きみたいなやる気のないジャケットも彼が書いている。

 曲の中身だが、ジャケットの絵と同じく、かなりテキトーである。ギンはいつものように手癖に頼ったギターを弾き、そこに酔っぱらいのような舌足らずのヴォーカルが重ねられる。物凄く安っぽい混沌といった感じ。一時間ぐらいで作ったような完成度だが、俺はギンのギターが出す歪んだ灰色の音色が好きなので(というか、彼はそれしか出せないんだけど)、このアルバムもそこまで嫌いではない。彼が最近やっているジャムバンドのように曲が長くないことも幸いしているのかも。

 元々これしか作るつもりがなかったのか、それともこの名義に飽きたのかはわからないが、Poindexter Stewartのアルバムは以後一枚も作られていない。

College Rock

College Rock

 

 

Always August 『Largeness With (W)Holes』1987年

 Always Augustは、ヴァージニア州リッチモンド出身のロック・バンド。SSTから出したアルバム2枚とEP1枚が彼らの全作品であり、活動期間も3年程度とかなり短い。ファースト・アルバムから参加しているメインのメンバーは4人のはずだが、AllmusicやDiscogsに掲載されているアーティスト写真にはなぜか5人写っている(5人目はセカンド・アルバムからラストのEPにまで参加したSteve Mathewsだろうか?)。作曲に携わっていたベースのTim Harding とヴォーカルのJohn Kieferは後にHotel Xを結成し、SSTからいくつか作品をリリースした。

 バンドの特徴としては、Grateful Deadに影響を受けたような、ポップなサイケデリックサウンドが挙げられる。また、『Geography』でMcCoy Tynerの「Sama Layuca」をカバーしていることや、『Largeness With (W)Holes』のジャケットの中で、Jaco Pastoriusのレコードを登場させていることなどから、彼らがジャズを好んで聞いていたということもわかる。Always August解散後に結成されたHotel Xは、いわゆるジャズ・ロック・バンドだったが、この頃から既にその予兆はあった。

『Largeness With (W)Holes』には、サックス、トランペット、トロンボーン、ヴァイオリン、といった楽器が演奏に加わっていて、曲調をバラエティ豊かなものにしている。ヴォーカルは、まあ、インディーズ的なへろへろさだが、耳障りという感じではない。むしろそのだるさが癖になる。

 ちなみに、『Largeness With (W)Holes』以外のアルバムは、レコードかカセットでしか販売されていないのだが、ファースト・アルバムの『 Black Pyramid』は、youtubeにフルでアップロードしている人がいるので、そちらで聞くことができる。 

Largeness With W Hol

Largeness With W Hol

 

 

 Brian Ritchie 『The Blend』1987年

 Violent Femmesのベーシスト、Brian Ritchieが、1987年にSSTよりリリースしたファースト・ソロ・アルバム。意外にも本人はあまりベースを弾いておらず、ヴォーカル、ギターに専念している曲が多い。

 シングルとしてもリリースされた一曲目の「Alphabet」は、打ち込みのドラムに、硬質なベースとアクの強い呪詛的なヴォーカルががっちりと絡みつく、ポスト・パンク的楽曲だ。8曲目の「Nuclear War」はSun Raのカバー。怒鳴り合いのような掛け合いと、アタックの強いドラムとベースが楽曲の中心となって、不穏な空気を醸し出している。様々な楽器が入り乱れる間奏も面白い。10曲目は、Sun Houseがカバーしたことでも知られている「John The Revelator」。Nick Caveのようなドロドロとしたヴォーカルが印象的である。アルバム全体を通して聞いた時、なんとなくJosef Kを思い出したが、バックの演奏がドタバタとしているところに共通点を見出したのかもしれない。

  Ritchieはセカンド・アルバムまでSSTからリリースしていたが、その後は別のレコード会社に移籍した。 

Blend

Blend

 

 

Kirk Kelly 『Go Man Go』1988年

  Kirk Kellyは1960年生まれ、ニューヨーク出身のフォーク・シンガー。80年代半ばの「アンチ・フォーク」運動に関わり、 Cindy Lee Berryhill、Roger Manningといったミュージシャンと親交を結んだ。

『Go Man Go』はKellyのファースト・ソロ・アルバムで、プロデューサーはすぐ前で取り上げたBrian Ritchie。楽曲のほとんど全てが、歌、アコーステック・ギター、ハーモニカだけで構成されている。Ritchieは3曲目の「Corporation Plow」にアコースティック・ベースで参加している。

 彼の曲や歌詞はBob Dylanに影響されていると見る向きが多く、アルバム全体にストリート・ミュージシャン的雰囲気が漂っている。ガチャガチャとかき鳴らされるアコギに絡みつく、独特の節回しが魅力といえば魅力か。

 SSTと言えば、パンク、オルタナティブといったイメージが強い中で、こうしたフォークのアルバムを出したのは、ある意味でリスナーの意表を突く行為だったと言えるだろう。その同じ年には、Roger Manning(Jellyfishのヴォーカルとは関係ない)のフォークを基調としたファースト・ソロ・アルバムがSSTよりリリースされ、88年という年は言ってみれば「SSTフォーク元年」といった感じだったのだが、結局その後がまったく続かず、Kellyは9年後に、Manningは5年後に、別のレコード会社からセカンド・アルバムを発表した。 

Go Man Go

Go Man Go

 

  

Zoogz Rift 『Nonentity (Water III: Fan Black Dada)』1988年

 プロレスの世界にも携わったことのある異色のミュージシャン、Zoogz Rift。『Nonentity (Water III: Fan Black Dada)』は彼にとって9枚目にあたるアルバムだ(SSTからは合計8枚のアルバムを出しているが、CD化されていないものも少なくない)。

 内容的には、スカム、アバンギャルドといったカテゴリーに分類されるだろうか。一度写真を見て欲しいのだが、とても堅気には見えない、大量のあご髭を生やした巨体の男が、そういう音楽をやっていること自体ちょっと面白い。彼のパートはギター、ヴォーカルで、だいたいいつも決まったミュージシャンがバックで演奏している。

『Nonentity (Water III: Fan Black Dada)』にはポップな部分とアバンギャルドな部分が同居している。ギター、ドラム、トロンボーン、ベース、アコーディオン等によるぐちゃぐちゃな即興演奏があると思えば、Tim Buckleyのカバーがなぜか3曲もある(笑)。レコードでは全6曲だったのが、CD化するにあたって3曲プラスされており、その内の2曲がTim Buckleyなのであった。まあ、Tim Buckleyのは、カバーというかカラオケみたいなもんだが。

 俺のお勧めは、6曲目の「When My Ship Rolls In」。ちなみにこれもカバーで、作曲者はJohn Trubee。彼は7曲目にもギターで参加している。「When My Ship Rolls In」が聞けるというだけでも、このアルバムには価値があるだろう(というかこの歌しか価値がないかも、ははは)。 

 ちなみに、スティーブン・ブラッシュの名著『アメリカン・ハードコア』の中で、Zoogz RiftはDas Damenと共に「売れない三流のクソ」と評されている(Always Augustは高く評価されている)。

Water III: Nonentity

Water III: Nonentity

 

 

DC3 『Vida』1989年

 Black Flagのヴォーカリストは、Henry Rollinsに決まるまで、計三人もの人間がそのパートについたが、SSTのエンジニアSpotは、三代目のDez Cadenaをフェイバリット・シンガーにあげている。Cadenaの父親はA&Rマンで、ブルー・ノートやサヴォイといったレーベルと関係が深く、 Yusef LateefやLightnin' Hopkinsといったミュージシャンのアルバム制作に携わった経験を持っている。そうした環境も影響したのかCadenaはミュージシャンとなり、Redd Krossを脱退した後、Ron Reyesの抜けたBlack Flagにヴォーカリストとして加入。しかし、途中からリズム・ギターに転向し、Rollinsが四代目ヴォーカリストとしてBlack Flagに参加することになった。『Dameged』のレコーディングには参加したCadenaだが、自身のギター技術が向上したことで、新たな可能性を追求しようと考えるようになり、Black Flagを脱退、キーボーディストのPaul Roessler(Black FlagのベーシストKiraの兄)とDC3を結成した。

 DC3はSSTからアルバムを4枚出している。そして、『Vida』はライブ・アルバムであり、彼らのラスト・アルバムでもある(ちなみに、『Vida』以外CD化されていない)。これまでDC3として発表してきた曲や、John Lee Hooker、Hawkwindのカバー、Cadenaが作曲したBlack Flagの曲などが、ここでは演奏されている。曲調はハード・ロックが一番近いか。Hawkwind、Mountain、Deep PurpleBlack Sabbathといったバンドの影響が随所に見られる。

 ライブなので演奏は荒々しく所々走りがちだが、破綻はしておらず、Cadenaのヴォーカルも調子が良い。ギターだけでなく、Paul Roesslerのキーボードも結構目立っている。Black FlagでCadenaのヴォーカルが好きだった人は、当然買うべきだろう。 

Vida

Vida