『サバービア─反逆のパンク・ロック』の思い出

 今はもう閉館してしまったシアターN渋谷というミニシアターに、高校生の頃、音楽のドキュメンタリー映画をよく観に行っていた。当時は、パンク・ロックに強い関心を持っていて、80年代アメリカのパンク・シーンを描いた『アメリカン・ハードコア』を観に行ったのが、同映画館に足を踏み入れた最初かもしれない。『アメリカン・ハードコア』は同タイトルのノンフィクションを元にして作られた映画で、両方とも出来がよかった。シアターN渋谷は、音楽ドキュメンタリーの他に、ゴア、スプラッター映画を上映していたのも特徴だったようだけど、そっちの方にはまったくタッチしなかった。『アメリカン・ハードコア』の後は、『ラフ・カット&レディ・ダブド』というピストルズ解散以降のUKパンク・シーンを追ったドキュメンタリーや、『パティ・スミス:ドリーム・オブ・ライフ』、『アップサイドダウン』もここで見た覚えがある。フィクションでは『カリフォルニア・ドールズ』。

 高校生だった僕は、TOKYO FM出版から出ていた『bounce book-PUNK ROCK STANDARDS』という本をガイドにして、パンク・ロックの基本的な知識を得ていた。この本にはパンクの名盤の他に、映像作品も紹介されていて、ペネロープ・スフィーリス監督の『反逆のパンク・ロック』も紹介されていた。スフィーリスはその前にThe Decline of Western Civilizationという80年代のLAパンク・シーンのドキュメンタリーを撮っていて、『反逆』以降では、『ウェインズ・ワールド』の監督として有名になった。僕はこの『反逆』という映画を『bounce book-PUNK ROCK STANDARDS』で知った時、ドキュメンタリーなのだとばかり思い込んでいた。ヤマダナオヒロによる短い解説文を読めば普通にフィクションだと分かるのだが、他の紹介されている映像作品がほぼ全てドキュメンタリーだったので、勘違いしたらしい。それで、シアターN渋谷で『反逆』が上映された際は、完全にドキュメンタリーを観るつもりで行った。フィクションだとわかっていたら観に行かなかったかもしれない。

 当日の観客は自分を入れて四人だった。あまり映画館に行くことがなかったので、この少なさにはびっくりした。

 そして、映画が始めると、さらにびっくりした。冒頭から、三才ぐらいの子供が、路上で犬に襲われ、引きずり回されるのだ。ノンフィクションだと思っているから、一瞬混乱し、すぐに自分が間違っていたことに気付いた。正直、観にきたことを後悔した。何せ、冒頭が冒頭だから。勿論、出て行くようなことはしなかったが、結果的には後悔したことに変りはないかもしれない。映画は、郊外に住むパンク・ロック好きの若者が、保守的な住人たちと対立し、最終的に武力衝突するまでに至る状況を描いていて、パンク・ロックというのが特徴的な小道具にはなっているが、プロット自体はわりと王道だ。この映画、何よりも印象に残るのはエンディングの後味の悪さだろう。ネタバレすると、いったんは敵対している住人(男二人組)を追い払い、立ち退きを迫られていた自分たちの住居を守ったと思った若者側だが、すぐに二人組が車で引き返して来て、若者らを追い回す。すると、若者らが面倒を見ていた五歳ぐらいの三輪車に乗った子供(ちなみにモヒカン)が、運悪くその車にはねられるのだ。車は一目散に逃げ、その場には子供の死体が残される。しかも、話はそこで終わり。映画館から出た後、非常にげっそりしたまま、渋谷駅まで歩いたことを覚えている。トラウマ映画と言えばトラウマ映画かもしれない。

 ちなみにこの映画レッチリのフリーが俳優として出ていることで有名だが、当時はまだフィアーのベーシストとして認知されていた。IMDBによれば、クレジットはされていないが、ロジャー・コーマンがプロデューサーだったらしい。

 

反逆のパンク・ロック [DVD]

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bounce book-PUNK ROCK STANDARDS

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 映画に挿入されているTSOLのライブ映像


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