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印南敦史 『音楽系で行こう!』

 この前ふと印南敦史の名前をグーグル検索したら、ライフハッカーでビジネス書の書評をしていて驚いた。彼のことは、ブラック・ミュージックをメインに扱う音楽ライター、というような認識をしていたからだ*1。『遅読家のための読書術』という本も売れているらしい。

 それで本棚にあった彼の著書『音楽系で行こう!』(2005年)を引っ張り出して久々に読んでみたら、冒頭でこういうことを書いていた。「だが、白状すれば、僕は音楽ライターで一生を終えたなら自分の人生は失敗だったと思わざるを得ないと思っている」。

『音楽系で行こう!』は「音楽ライター」という職業の中身について詳しく解説した本なのだが、主眼は「ライターを職業にするとはどういうことなのか」という点にある。つまり、職業である以上は、それで食っていかなければならないということで、当然楽なものではない。一見華やかに見える「音楽ライター」という仕事が、いかに厳しく不安定なものであるか、印南はこの本の中で説明している。彼はこの本の終りの方で、音楽ライター業について、「『いかにして商売にするか』ということが大切」と書いているが、この姿勢の延長がライフハッカーでの仕事ということになるのだろう。

『音楽系で行こう』には他にも色々面白いことが書かれている。

  

 音楽雑誌といっても、音楽専門誌と総合音楽誌では性格が異なる。

 音楽専門誌はその名のとおり、特定のジャンルに特化した専門誌だ。ライターにも相応の知識と情報量が要求されるので、記事も専門的で詳細。そのジャンルが好きな読者には、とても役立つ媒体だといえる。

 ただしジャンルによってはおのずと読者数が少なくなるため、発行部数は決して多くない。公称1万前後が一般的だろうが、現実的には5000部前後なのではないだろうか。

 つまりそのジャンルに関心のない人には意味がないだけに、へたをするとマニア同士の自己満足大会的な雰囲気も生み出しかねない。

(中略)

 一方、もっと間口を広げた媒体が総合音楽誌だ。あらゆるジャンルの音楽を平均的に取り上げていて、「マニアではないが、そこそこに音楽が好きな読者」を対象にした媒体。ひとつのジャンルに対する専門的な知識よりも、求められるのは総合的なバランス感覚だ。(p.42)

 

 昔から、音楽ライターと映画ライターはギャラが安いことで有名である。ちっとも喜ばしい話ではないのだが、事実なのだから仕方がない。

 では、なぜ安いのか?

 答えは非常にシンプルだ。音楽も映画も、限られたユーザーを対象とした娯楽物でしかないからである。(p.52)

  

 ところで、アーティストがインタヴューを受けるのは、ほとんどの場合アルバム発売時期と来日時に限定される。つまりプロモーションの一環なので、ありきたりの質問をすればありきたりの答えしか返ってこなくて当然なのだ。

 だから新作について聞く場合でも、ヒネリを加えると効果的だ。

 たとえば「○○を聴いて、君は△△なところがあるんじゃないかと僕は思った。それは的外れかな?」とか。 

 うまくいくと向こうから立ち上がり、「そうなんだ。俺がいいたかったのはそれなんだ!」と感激しながら握手を求めてきたりもする。

 もちろんここまで持っていくためには作品を聴き込み、目の前にいる本人をつぶさに観察する必要がある。そこから「こうなんじゃないか?」みたいな仮説を導き出し、ぶつけるのである。(pp.82-83)

  

 営業という仕事は、どこかナンパに似ている。「100人に声かけて、2、3人をゲットできればめっけもの」みたいな感じが。つまりはそれほど確実性が低いということだ。

 けれども大切なのは、二の足を踏んでいる時間にも他の人は営業しているということ。自分が止まっているその瞬間に、仕事がまとまっている可能性もあるということ。そう思うと、動かずにはいられないでしょ。

(中略)

 コツがあるとすれば、誠実にアピールすることに尽きるのではないだろうか。口ベタでも問題ない。営業にきた人間を口のうまさで評価するような編集者はいないし、いたならそんな会社で仕事しない方がいい。(p.93)

 

 おそらくディレクターは、レコード会社のなかでいちばん華やかに見える仕事だろう。扱っているものが洋楽か邦楽かによって若干の差はあるとはいえ、アーティストとの距離感も近く、ときには個人的なつきあいをしたりもできる。自分のアイディアを担当アーティストの作品に反映させることも不可能ではないし、最前線にいられる。

(中略)

 だけど、現実的に、ディレクターの仕事というのはそれほどきらびやかなものでない。打ち合わせの調整からスケジュールの設定、ときにはアーティストのメンタルケアや弁当の買い出しまで、早い話がなんでも屋さんなのである。アーティストに「売れる」作品をつくらせることが仕事の核なのだから、当然といえば当然の話。(pp.118-119)

 

 「音楽なしでも生きてはいける」

  そんなの当たり前っすよね。

 人間が生きていくのに必要な養分が、音楽に含まれているというならまだしも(含まれていたとしたら、なんかちょっと感覚的に気持ち悪い)。

 が、もしかしたらこのフレーズを常に頭のどこかに置いておかないと、音楽のありがたみなんてすぐ忘れてしまうものなのではないかと、ふと、そんなことを感じたのである。(p.214)

 

 企画したコンピレーションアルバムが売れなかった話、編集者から脅迫された話、など怖い話も色々ある。「ライターとして生活する」ということを考えるうえで、重要な一冊だと思う。 

音楽系で行こう !

音楽系で行こう !

 

 

*1:『音楽系で行こう!』の中に、「音楽ライターとして『ヒップホップ/R&Bの人』みたいな限定イメージに悩まされてきた」と書いてあった。すいません