金村義明 『80年代パ・リーグ 今だから言えるホントの話』
金村義明と言えば、タレント兼野球解説者として、バラエティ番組などでもよく見かけるが、本書はそんな彼が文字通り「80年代パ・リーグ(一部90年代ネタもあり)」について面白おかしく語ったものだ。
テレビでも近鉄時代の裏話についてはよく喋っているので、ネタはいくつか被っている(というかそこで話題になったからこそ、本として出版されたのだろうが)。例えば、栗橋茂やジム・トレーバー、リチャード・デービスのエピソードとか。だから、テレビで彼の話を聞いていた人には、そこまで新鮮味はないかもしれない。
それでも、まとめてそれらのエピソードを読んでいくと、当時の空気感のようなものを追体験できる。藤井寺球場や川崎球場の環境の悪さ、親会社のドケチぶり、派手な乱闘、サイン盗み等々。劣悪な環境だったからこそ生まれたパ・リーグ野球。裕福なセ・リーグ球団や西武ライオンズに対する熱い反骨心がここでは描かれている。
野球界の人間関係についての話も面白い。梨田や大石大二郎が近鉄では「幹部候補」として球団から優遇されていたとか、鈴木啓示がチーム内では「ビッグワン」と呼ばれるほどの大物ぶりを発揮していたとか、西武監督時代の東尾に「ヤキモチ」をやかれたとか。鈴木は近鉄監督時代、野茂や立花龍司対立したことで有名だが、金村は鈴木の「名選手ならでは」の傲慢さについて色々と書いている。あと、中西太が未だに球界に対し影響力を持っているというのも興味深かった。中西は、ブライアント、若松勉、宮本慎也などを育てた名バッティングコーチで、雇われた先の球団では必ず中西を崇拝する教え子ができるほどのカリスマ性を持ち合わせていた。ヤクルトのバッティングコーチ杉浦繁も中西の教え子らしい。中西は、栗山監督の頼みで、最近はファイターズの選手も指導しているとか。最後に正式にコーチを務めたのはもう20年近く前になるが、中西の教えは今でも脈々と受け継がれている。
本書には、吉井理人が一時期仰木監督の起用法に不満を持っていたということも書かれている(後に和解)。近鉄監督時代の仰木は投手の起用法を巡り、権藤博ピッチングコーチと対立していたことがあって、それは『プロ野球 書いたら、あとはクビ覚悟』(リム出版)に詳細が載っている。仰木はピッチャーを酷使する傾向にあったので、投手陣からはあまり受けがよくなかったようだ。金村も「人事や采配で非情な面を見せることも多々あった」と本書の中で書いている。
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