ロン・ローゼンバウム 「ドナルド・トランプって結構いい人だ」

 かつて、東京書籍が「アメリカ・コラムニスト全集」というシリーズを企画していて、トム・ウルフポーリン・ケイルの批評的エッセイ集等がその中に組み込まれていた。

 この前、図書館でそのシリーズの中の一冊、ロン・ローゼンバウムの『ビジネス・ランチをご一緒に』というのを借りてみた。作者のローゼンバウムは、経済ジャーナリストで小説家で、原著は1987年に出版されている。ちゃんと読むつもりではなく、「取り敢えず中身を確認しておくか」ぐらいの気持ちだったのだが、目次を眺めていると「ドナルド・トランプって結構いい人だ」という刺激的なタイトルが目に飛び込んできた。

 本書は成功した経営者やセレブの実態について、彼ら本人にインタビューして書いたもので、トランプはその内の一人という扱いだ。80年代の話なので、内容は実業家トランプについて迫るというもの。

 しかし、ローゼンバウム自身も驚いていることだが、トランプはまず最初に、経営の話よりも「核拡散」という政治問題について喋りたがった。一瞬、冗談だと思うローゼンバウムだが、トランプは本気なのである。本気で、フランスの核輸出や、カダフィのような独裁者が核兵器を持つことについて憂いているのである。ローゼンバウムは困惑気味にこう書いている。

 

(前略)だがそれ(核拡散)に関する彼の話を聞いているうちに、私は、トランプがそれに真剣に取り組んでいると確信するようになった。

 これは私にとっては、ちょっとした苦しい結論である。(中略)私は安っぽいジョークと皮肉をすべて捨てざるをえなくなった。もしそれが、野心満々の不動産屋が国家的舞台へ躍り出ようとする、何か奇異な自己中心的行動であれば、ジョークや皮肉も言えただろうに、すべてそうしたものは言えなくなってしまったのである。(p.65)

 

 トランプが核に興味を持ったのは、放射線治療の先駆者だった叔父(ジョン・トランプ)を通してだった。叔父から、核爆弾が年々容易に作ることができるようになっているということを聞いたトランプは、人類の破滅を防ぐべく、核の拡散を防止することを真剣に考えるようになったというのだ。彼はアメリカ側の政策担当者を批判し(ちなみに、時代はレーガン政権下である)、「核拡散」防止策について、ローゼンバウムに語る。例えば、こんな調子だ。

 

 経済面か何かで強い態度に出るべきだろうと、私は思う。解決するには経済的な要素が大きく絡んでくるからね。そうした国々(パキスタン等)の多くはぜい弱だ。それに対しわが国には、今まで一度も使ったことのない巨大な力がある。彼らは食糧や医薬品の面でわが国に依存している。私はこれ以外の問題に関して、こう提案したことは一度もない。だが、この問題は、何としても解決しなければならない問題だ。(p71-72)

 

 実際、トランプはレーガンに近い人々にアプローチし、核問題についての持論を何度も開陳していたようだ。ローゼンバウムは、トランプがホワイトハウスの「厄介者」になっているかもしれないと書いているが、この時の苛立ちが、のちの大統領選立候補にも繋がっているのかもしれない。つまり、政治を動かすには、政治家になる以外方法はないと考えたということだ。トランプは経営者の政治的影響力の限界を、核問題を通じて知ったのだった。

 トランプのパーソナリティについては、散々色々なことが言われているが、この核問題への熱心な取り組みを見る限り、彼には彼なりの「正義感」があるということがわかる。単に「野心」だけで大統領に立候補したわけではない。だからこそ、彼は「強い」のだろう。

 

ビジネス・ランチをご一緒に ロン・ローゼンバウム集 (アメリカ・コラムニスト全集)

ビジネス・ランチをご一緒に ロン・ローゼンバウム集 (アメリカ・コラムニスト全集)