東京電力の社員を名乗る泥棒

 家に泥棒が入った。泥棒を入れたのは家族だった。
 水曜日の午前11時頃、俺が会社に行っている間、家に「東京電力の検査員」を名乗る小太りの中年男がアポなしでやってきたらしい。男は作業着姿で、社員証らしきものを首から下げ、腕に腕章を巻いていた。
 

 家には祖母と母がいて、男の対応には祖母があたった。祖母は数十分前に、男が同じ階の別の部屋を訪れていたのを目撃していた。母は吠える犬(他人を噛む癖がある)を抱いて自分の部屋にいた。男はアンケートみたいなものを持っていて、「事前にこのアンケートを入れてたんですが」と言った。祖母はそれに心当たりがあったような気がしたので、男を家に入れ、言われるがままに家中のコンセントを点検させた。何度か、「ブレーカーの方を見てきてほしい」と頼まれ、男を一人にした。男は話しが上手く、快活に色々調子よく喋って、警戒を解いたらしい。
 

 夜、俺が家に帰ってくると、祖母から「あんたの部屋、ホコリがたまってて危ないらしいよ。ブラシを外した掃除機でコンセントの中のホコリ吸い取れって。火事になるから」とその男からの忠告を俺に伝えた。
「でも、一番危ないのはあたしの部屋なんだって。全然使ってないコンセントが一つあって、そこにすごいホコリたまってたから気をつけろって」と祖母は言った。
 

 次の日、祖母の部屋の机から金が抜き取られていたことが発覚した。男は我が家に来る数日前に、他の部屋に入り、「明日部品を持ってきます」と言い残し退散したが、いくら待っても訪れず、怪しんだ住人が管理人に確認して、男が偽の検査員だということが判明した。その注意書きが、俺の家に泥棒が入った次の日に、一階の掲示板に貼られ、それを見てようやくそいつが泥棒だったことに気が付いたわけだ。
 

 金曜日に警察に来てもらい現場検証をしたが、このタイプの泥棒は関西には多いらしいが、埼玉では始めてだという。部屋から指紋をとったが、泥棒は当然しっかりと黒い手袋を嵌めていたし(「検査するのに危ないからはめてなきゃいけないんですよ」とまで言っていたとか)、マンションの監視カメラの場所もきちんと把握してから来ただろうし、祖母は男の顔をほとんど覚えていなかったから、手がかりはほとんどなく、捕まえるのは難しそうだった。

 

 そもそもアポなしで来た男を何の確認もせず家に入れた時点で、相当な間抜けである。このまま、埼玉で誰も被害に合わなければ、うちは埼玉で一番間抜けな家族となってしまう。なので、誰か被害にあってほしい、というのは冗談だが、こういう泥棒もいるということを書いておく。

 

 

職業「泥棒」年収3000万円(決してマネをしないでください)

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