ジェニファー・ライト 『史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語』

 国会図書館サーチで、日本語で書かれたノーマン・メイラーについての記事を見ていたら、この本がひっかかった。去年の9月に出版されているのだが、新刊情報に疎いせいで今まで見逃していたのだ。クリックし、掲載されている目次を見ると、自分の関心領域と被っているところが多かったので、さっそく読んでみた。

 内容はタイトルからもわかる通り、有名人たちの恋愛物語。取り上げられているのは、前半がネロ、アリエノール・ダキテーヌ、ヘンリー八世などの貴族で、後半になると、バイロンオスカー・ワイルド、イーディス・ウォートン、ノーマン・メイラーなどの文学者が多くなる。女が主役の章もあるが、印象に残るのは、ネロとかラスキンとかオスカー・ココシュカとかノーマン・メイラーのような、サディスティックな奇人たちだ(例外として、アンナ・イヴァノヴナ)。

 基本的には非常に軽い読み物で、その分野に詳しい人にとっては物足りないだろうが、自分はオスカー・ワイルド以外知らないことが多かったので、興味深く読めた。ただ、「古代ローマ時代には、同性愛の関係は難色を示された」とか、ヴィクトリア朝が性に対し抑圧的だったとか、疑問符がつく記述も少なくない。また、ユーモアのつもりなのかジョークを大量に散りばめた文章もうっとおしい。なので、具体的な人物描写に焦点を絞って読むのをおすすめする。

 自分が驚いたのは、美術評論家ラスキンが、結婚初夜に妻との同衾を拒んだこと。本書によれば、ラスキン小児性愛者で、成長した女の身体に興味を持てなかったようだ(といっても相手は当時19歳だったのだが)。また、イーディス・ウォートンが、アル中で鬱病だった夫とは肉体関係を持てず、45歳の時にヘンリー・ジェイムスの友人との間に起きた情事が、ほぼ初めてのセックスであったというのも、驚愕だった。

 バイロンとキャロライン・ラムとの関係については、アンドレ・モロワの『バイロン伝』で知っていたが、本書で描かれているバイロンに対しラムが行ったエキセントリックな行動については少しバイロンに同情した(しかし、同じモロワの書いた『シェリイの生涯』を思い出すと、バイロンには怒りしか感じなくなる)。ちなみに、キャロライン・ラムについては、劇作家のロバート・ボルトが映画化していて、リチャード・チェンバレンバイロンを演じている。日本では未DVD化作品なので、いづれソフト化してほしい。

 これを読んで、俺はもっと詳しいことを知りたくなったが、ノーマン・メイラーやイーディス・ウォートンの伝記が翻訳されることはないんだろうなぁ。メイラーの生涯とか絶対に面白いはずなんだが。

 

史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語

史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語