伝記

ウィルソン夏子 『エドマンド・ウィルソン 愛の変奏曲』

エドマンド・ウィルソンについてもっと知りたいと思うようになったのは、彼の著作ではなく、彼にまつわるゴシップを読んでからだった。 一番初めに読んだウィルソンの本は、ご多分に漏れず『アクセルの城』だった。力作であることは認めるけれど、詩に対して…

なぜ村松剛は三島由紀夫の同性愛を否定したのか?

「三島由紀夫=ゲイ」という等式を疑う人は、今ではほとんどいないと思われる。俺も三島由紀夫の文章や、彼について書かれた物を読む時は、そのこと意識している。というか、半ば常識として捉えているといったほうが正しいか。 だから、週刊誌『平凡パンチ』…

ジェニファー・ライト 『史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語』

国会図書館サーチで、日本語で書かれたノーマン・メイラーについての記事を見ていたら、この本がひっかかった。去年の9月に出版されているのだが、新刊情報に疎いせいで今まで見逃していたのだ。クリックし、掲載されている目次を見ると、自分の関心領域と被…

J・D・サリンジャー 『ハプワース16、1924年』

サリンジャーが雑誌などに発表した短編小説の中には、本人が後に単行本化するのを拒否したため、封印状態になったものがいくつかある。例えば、『ライ麦畑でつかまえて』の原型となった、「マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗」や「ぼくはち…

三島由紀夫が旅行記に書かなかったこと

先月、「右翼」の三島由紀夫が初の岩波文庫入りということで、話題になった(まあ、海外の著者なら、既にエドマンド・バークとかも入っているが)。中身が旅行記だったので、特に興味もなかったが、水声社のヘンリー・ミラー・コレクション『対話・インタヴ…

遠藤周作 vs 三島由紀夫──サドを巡って──

縄張り争いというのは、あらゆる生物に共通する、最もポピュラーな戦いの一つだ。また、縄張りは、物理的な物に限らず、例えば同じ分野の研究者同士が途轍もなく仲が悪かったりする。作家にしても、関心領域が近いと、争いに発展しやすい。 ただし、作家同士…

小林秀雄の暴力性

昭和の文壇で作家に最も恐れられた批評家といえば、小林秀雄だろう。とは言っても、彼について書かれた様々なエピソードを読む限り、その恐ろしさは、あの論理の飛躍した文体の持つカリスマ性だけでなく、もっと直接的な「暴力」によっても支えられていたの…

スチュアート・ケリー 『ロストブックス』

1922年、ヘミングウェイの妻ハドリーは、スイスにいるヘミングウェイに会いに行く途中、スーツケースを盗まれた。このエピソードが有名なのは、その中に、大量の未発表原稿とそのコピーが入っていたからだ。ヘミングウェイの習作は永遠に失われることに…

独断と絶対的な自信を持って選ぶ珍伝記ベスト3

俺は伝記を読むのが好きだ。特に文学者の伝記をよく読む。 伝記というのは、そんなにはずれを引くことのないジャンルだと思う。十分な知識を持っていないと書けない分野だし、抽象的な事柄をほとんど取り扱わないから、スラスラと読んでいける。 逆に、つま…

映画『ジュリア』とリリアン・ヘルマンの嘘

ジェーン・フォンダが主演し、ヴァネッサ・レッドグレイヴがアカデミー助演女優賞を受賞した映画『ジュリア』は、原作がリリアン・ヘルマンの「自伝」であるため、「実話」ということになっているが、これは正しくない。正確に言うならば、他人の身に起こっ…

本当は怖い文学史

文学史関係の本を読んでいると、気がつくことが一つある。それは、文学史というのが、作品の良し悪しというよりも、いわゆる「ゴシップ」の集積で出来ているということだ。文学史につきものの「論争」に関しても、そこに行きつくまでに、複雑な人間関係を経…

クレイグ・ブロンバーグ 『セックス・ピストルズを操った男 マルコム・マクラーレンのねじけた人生』

マルコム・マクラーレンといえば、セックス・ピストルズを作った男であり、パンクを金になるメイン・カルチャーにまで押し上げた男だ。しかし、これほど毀誉褒貶が激しい人間もそういない。彼と仕事をした人間は、例外なく彼を嫌う(ジョン・ライドンとは裁…

ブルース・ポリング 『だからスキャンダルは面白い』

タイトルを見て気になり、図書館になかったのでAmazonで買ったのだが、正直、期待外れの一冊だった。 文庫本で460ページほどの厚い本で、目次を見ると、「バイロン卿の危険な情事」、「H・G・ウェルズの悪い癖」、「グレアム・グリーンの筆禍騒ぎ」など、…

アル・パチーノ ローレンス・グローベル 『アル・パチーノ』

アル・パチーノは俳優として優れているというだけでなく、アメリカ文化においても重要な存在だ。『狼たちの午後』、『セルピコ』、『ゴッドファーザー』三部作、そして『スカーフェイス』といった作品を抜きにして、アメリカのポップ・カルチャーを語ること…

川本三郎 『スタンド・アローン』

たまたま昔の書籍に入っていた広告を見て気になり、読んでみたのだが、これが抜群に面白かった。「今世紀初頭(20世紀)から現在まで、映画、文学、スポーツ、音楽などの分野で独自の世界を築いた個性的な男たち23人のミニ・バイオグラフィー」というの…

A・E・ホッチナー 『パパ・ヘミングウェイ』

本書は、作家のA・E・ホッチナーが、『コスモポリタン』の編集スタッフとしてヘミングウェイに会いに行った1948年から彼が自殺する1961年までの交流を描いたメモワールで、ヘミングウェイの晩年の生活を知るうえで大変貴重な資料だ。 1948年の…

ポール・ニューマンとアカデミー賞

2016年に行われた第88回アカデミー賞受賞式では、これまで4度候補に挙がりながらオスカー像を逃し続けてきたレオナルド・ディカプリオが、5度目のノミネートで遂にアカデミー主演男優賞(『レヴェナント: 蘇えりし者』)を受賞したことが話題になっ…

パトリシア・ボズワース 『マーロン・ブランド』

マーロン・ブランドは1924年、ネブラスカ州オハマで生まれた。家族構成としては、両親の他に二人の姉がいる。母親のドディはブランドが小さい頃──時には家族そっちのけで──演劇に熱中していた。彼女は芸術家肌だったが、セールスマンの夫はそれに対し無…

アンディ・ウォーホルと「臆病さ」について

「ウォーホルはとても臆病な人間だ」。それがフレッド・ローレンス・ガイルズの『伝記 ウォーホル―パーティのあとの孤独』を読んだ時の感想である。彼の人生は虚偽に塗れていた。銀髪のかつら、鼻の整形、出身地の詐称…… これらの嘘は自分を保護するためのも…

ポール・アレクサンダー 『ジェームズ・ディーン 破れた夢の道』

ジェームズ・ディーンの伝記を読んでみようと探していたら、翻訳されているものでは、ポール・アレクサンダーの物とドナルド・スポトーの物が見つかった。原著の発表は前者の方が早い。そして、アマゾンではアクレサンダーの物がかなり酷評されている。気に…

クレメンス・デビッド・ハイマン 『リズ』

女優の奥菜恵が3月13日に結婚を発表した。奥菜はこれで3度目の結婚になる。 結婚と離婚を繰り返した女優といえば、エリザベス・テイラーだ。彼女は7人の男性と8回結婚し、8回離婚した強者である。そんな彼女の人生を知るにはC・デビッド・ハイマンが…

フィリップ・デイヴィス 『ある作家の生 バーナード・マラマッド伝』

20世紀アメリカを代表するユダヤ系作家として、よくセットで取り上げられるのがソール・ベロー(1915-2005)、バーナード・マラマッド(1914-1986)、フィリップ・ロス(1933-)だ。かつてベローはそういう状況に苛立ち、「文学版ハート・シェフナー・マーク…

ジェレミー・リード 『ワイルド・サイドの歩き方 ルー・リード伝』

ニューヨークの暗部を歌い尽くした男、ルー・リード。彼の人生を総括した本が、詩人・小説家であるジェレミー・リードの手によって著わされた。「俺は誰よりもルー・リードらしく振る舞える」とうそぶき、自らを積極的に「偶像化」した彼の真の姿を、本書に…

サンドウィッチマン 『敗者復活』

サンドウィッチマンがお笑いコンビの中で一番好きかもしれない。ネタは当然面白いと思っているし、あと、強面だけどガツガツ前に出ていかないというか、与えられた仕事を確実にこなす職人的なところに魅かれているのかも。 それで彼ら二人のパーソナリティに…

小谷野敦 『 江藤淳と大江健三郎: 戦後日本の政治と文学』

江藤淳と大江健三郎は、同時期に同世代として文壇に登場し、批評家と小説家、右翼と左翼という立場から、極めて対照的な存在として、比較され、批評されてきた。だが、本書は、そうした思想による対比だけではなく、二人の生い立ちから江藤の自殺を経て現在…

江藤秀一編 『晩年にみる英米作家の生き方』

図書館検索で蔵書を調べていた時に、たまたま見つけた一冊。この本を読むまで「港の人」という出版社のことは全然知らなかったのだが、鎌倉にあって文学関係の本をぽつぽつと出しているらしい。 本書はタイトルの通り、著名な英米作家の「晩年」に焦点をあて…