日本文学
『文學界』1967年8月号では、「作家が選んだ戦後文芸評論ベスト20」という特集を組んでいる。初めに、磯田光一司会で、野間宏、中村真一郎、小島信夫、大江健三郎らによる座談会(「作家にとって批評とは何か」)があり、その結びとして、読者に勧める文芸…
『群像』1974年1月号では、「戦後文学」に関する特集が組まれており、「批評家33氏による戦後文学10選」というアンケートと、秋山駿・磯田光一・柄谷行人・川村二郎・上田三四二らによる座談会「戦後文学を再検討する」という企画が組まれている。ここに…
『群像』1996年10月号は、「創刊五十周年記念号」ということで、大江健三郎×柄谷行人、江藤淳×秋山駿の対談や、木下順二、小田切秀雄のエッセイが載っているいる。 アンケートでは、「私の選ぶ戦後文学ベスト3」というのが企画されていて、選者は批評…
ジョン・ネイスンは三島の『午後の曳航』や大江の『個人的な体験』の翻訳者であり、映画『サマー・ソルジャー』の脚本家であり、アーティスト小田まゆみの元夫でもある。 しかし、僕にとってはやはり『三島由紀夫─ある評伝─』の作者だ。ネイスンの三島伝は、…
森鴎外の短編「舞姫」は、教科書に掲載され、鴎外の作品の中で最も人口に膾炙したものだろうが、エリートの男が留学先で女を身勝手に捨てるという不道徳な内容から、発表当初より批判があり、また鴎外本人の身に起きたことを小説化していたため、小説・作家…
文学史関係の本を読んでいると、気がつくことが一つある。それは、文学史というのが、作品の良し悪しというよりも、いわゆる「ゴシップ」の集積で出来ているということだ。文学史につきものの「論争」に関しても、そこに行きつくまでに、複雑な人間関係を経…
日本人は、海外(西洋人)からどう見られているか、ということをよく気にしている。テレビではかつての『ここがヘンだよ日本人』のような過激な物から、『YOUは何しに日本へ?』のような温和な物まで、外国人の視点を意識した番組が作られ、出版界隈では、『…
グレアム・グリーンが遠藤周作の小説を称賛したことはよく知られている。二人にはカトリックという共通点があり、彼らの小説を語る際には、よくそのことが言及される。 カトリックであるということ以外に、二人を結び付けている共通点がもう一つある。それは…
中上健次はマガジンハウスから出版されていた『ダカーポ』という雑誌で文芸時評を連載していたことがある。最初で最後の文芸時評だ。連載期間は1988年11月2日号から1989年11月1日号までの1年間で、連載回数は25回。 同時期には『朝日ジャー…
止まれない男たち──「片思い」と「生きる意味」で紹介した小説「悲望」(あらすじはそっちに書いた)だが、そこにこんな箇所がある。 私が篁さんに惹かれた原因の一つに、彼女の孤立があった。彼女と同学年の人たちは、研究室の「保守的」な気風に合っていな…
往復書簡という形で作家のミシェル・ウエルベックとも共著を出したことがある哲学者ベルナール=アンリ・レヴィに『危険な純粋さ』(邦訳、紀伊國屋書店)という本がある。これ自体はユーゴスラビア紛争やイスラム過激派について扱った批評エッセイだが、タイ…
「本の雑誌」2015年12月号では、「太宰治は本当に人間失格なのか?」という特集を組み、西村賢太と坪内祐三による「ダメ作家グランプリ」と題した対談を掲載している。坪内と西村は共に日本近代文学に造詣が深いから、今回の特集にはうってつけの人選…
1 三島由紀夫が監督を務めた映画『憂国』は、一九六六年に日本ではATG系列で公開された(ちなみにブニュエルの『小間使の日記』との併映だった)。映画は自身が書いた小説「憂国」を原作にしており、物語の背景には二・二六事件が使用されている。簡単に…
村上春樹は『羊をめぐる冒険』で、「右翼の大物」なる人物を登場させていたけれど、今、自分が社会的に大きな影響力を持っていることについてはどう思っているのだろうか。何せ、小説内で用いたクラシック音楽を、ベストセラーにすることができるぐらいだ。…
「残酷な視線を獲得するために」と題された村上龍と蓮實重彦の対談(初出は「ユリイカ」臨時増刊「総特集 村上龍」青土社、1997年)で、村上は『五分後の世界』がメイラーの『裸者と死者』に影響を受けたことを明らかにしている。 僕は、ノーマン・メイラー…
今はもうなくなったと思うんだけど、昔フィクション・インクという出版社があって、ラリー・クラークの『KIDS』とかを出版していた。サブカルチャーに強く、『ロッキング・オン』に求人の広告を出していたのを覚えている。 フィクション・インクは『SALE2』…
江藤淳と大江健三郎は、同時期に同世代として文壇に登場し、批評家と小説家、右翼と左翼という立場から、極めて対照的な存在として、比較され、批評されてきた。だが、本書は、そうした思想による対比だけではなく、二人の生い立ちから江藤の自殺を経て現在…
イアン・ブルマの『イアン・ブルマの日本探訪』には、「村上春樹 日本人になるということ」という、村上へのインタビューをもとにして構成した記事がある(初出は『ニューヨーカー』1996年12月23日号)。個人的なこと、特に家族について詳しく語りた…
週刊読書人 2014年9月5日号に掲載されました。 週刊読書人2014年9月5日号◇座談会=小谷野敦・栗原裕一郎対談 ―芥川賞について話をしよう第六弾<文学はこのまま壊びゆく運命にあるのか> 週刊読書人2014年9月5日号◇座談会=小谷野敦・栗原裕一郎対談 ―芥川賞…
『リテレール』1992年冬号より引用。副題は「私の考えを変えたフォークナー、ミラー、ディラン」。文章は柴田元幸が翻訳している。以下リスト。 『アラビアン・ナイト』(岩波文庫) レスター・バングズ『サイコティック・リアクション・アンド・キャブ…
ここでも紹介した『リテレール』1992年冬号からのリスト。副題は「これまでに読んだ何万冊からの、とりあえずのベスト」。中村は「ひとりの著者からは一冊」という原則に基づき、リストを作っている(ところどころ出版社名が抜けているのは原文ママ)。 …
前回紹介した『リテレール』1992年冬号からの引用。副題は「勉強のためではなく、現実逃避のための読書」 モーム『人間の絆』全四巻(新潮文庫) モーム『月と六ペンス』(新潮文庫) ユゴー『レ・ミゼラブル』全七巻(岩波文庫) デュマ『モンテ・クリ…
安原顕が編集していた雑誌『リテレール』1992年冬号に載せられたもの。「仕事がらみの本を除いたオール・タイム・ベスト」という副題がついている。以下リスト(表記は原典に倣った)。 弓館芳夫『西遊記』(第一書房) 江戸川乱歩『怪人二十面相』(講…
安原顯が中心となって企画したブックガイド『読書の快楽』。1985年に角川文庫より出版され、その後も安原の手によって、様々なブックガイドが編まれた。 選者には、安原と付き合いのある人たちが起用されているのだが、いわゆるニューアカ関係者が多い(…
1985年に福武書店から出版された金井美恵子の『文章教室』(初出は『海燕』83年12月号から84年12月号)は、87年には同出版社から文庫化され、その際、「『文章教室』では何を習うべきか」と題された金井へのインタビューが追加された。聞き手…
新潮OH!文庫から出版された時には、「日本文学史上に屹立する、Hなじゅん文学! 」というすごいサブタイトルがつけられていた本書。単行本版の表紙にはデッドベアが使われていた。 内容紹介を見て、「みうらじゅんの私小説なのかな」と思って読んだのだが、そ…
金井美恵子は、「愛の生活」という短編で1967年に文壇デビューしたが、60年代に燃え上がった学生運動にはコミットせず、現在に至るまで、社会的・政治的な運動とは距離を置き続け、1997年に刊行された『軽いめまい』のあとがきにおいても、「私は…
自称スーパー・エディター安原顯が編集していた雑誌『リテレール』1993年冬号の企画「短編小説ベスト3」。著名な作家、評論家、翻訳家に、文字通り「短編小説」のベスト3を選んでもらっている。適当に抜粋していこう。 西村孝次 エドガー・ポウ「黒猫…
若くして自殺した詩人ハート・クレインに「チャップリン風に」という詩がある。 ぼくらはおずおずと順応を試みる── たとえば風が、ぶかぶかの おんぼろポケットに入れていってくれるような、 成り行きまかせの慰めなんかに満足して。 (以下略) 「チャップ…
中原昌也という存在を、うまく掴みとれない人も多いかもしれない。ある時はノイズ・ミュージシャン、ある時は映画評論家、ある時は小説家、ある時はイラストレーター…… そんな風に多彩な側面を見せる彼だが、本書を読めば、彼の抱えている困惑や怒りについて…