海外文学

ウィルソン夏子 『エドマンド・ウィルソン 愛の変奏曲』

エドマンド・ウィルソンについてもっと知りたいと思うようになったのは、彼の著作ではなく、彼にまつわるゴシップを読んでからだった。 一番初めに読んだウィルソンの本は、ご多分に漏れず『アクセルの城』だった。力作であることは認めるけれど、詩に対して…

文壇ゴシップニュース 第9号 『スカーフェイス』の元ネタ? セルゲイ大公暗殺未遂事件

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文壇ゴシップニュース 第7号 アルベルト・モラヴィアの逆ポルノ小説『わたしとあいつ』

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秋草俊一郎 『「世界文学」はつくられる 1827-2020』

ある小説が優れていることについて、「これは世界文学だ!」と表現する人がいて、自分はそれを見るたびに苛立っていた。まず、「世界文学」という言葉は昨今あまりにも乱用されており、それ自体既にクリシェと化しているのにも関わらず、そこに気づかない非…

文壇ゴシップニュース 第6号 シンクレア・ルイスの顔面を侮辱したヘミングウェイ──私小説としての『河を渡って木立の中へ』──

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本当は怖い文学賞

文学賞というのは表向きその本の実力によって選ばれていることになっているが、無論、人間がやっていることなので、1から10までフェアということは有り得ない。『万延元年のフットボール』が谷崎潤一郎賞をとるという納得のいく結果もあれば、功労賞としか思…

ロックスターとロマン派詩人が重なる時

高校時代、俺のアイドルはリバティーンズのピート・ドハーティだった。彼の作る音楽はもとより、文学に対する造詣の深さとデカダンスな生き様、そしてスタイリッシュなファッションセンスを兼ね備えているところが、文学とロックは好きだったものの、はちゃ…

裸になった作家たち

作家で自分の裸を露出した人と言ったら、まず三島由紀夫を連想するが、そのほかにも裸の写真を仲間と撮ったり公開したりした作家は意外といる。文筆家がヌードになる必然性はまったくないのだが、エゴの強さなのか、たまには見せたくなるもののようだ。誰が…

ジェニファー・ライト 『史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語』

国会図書館サーチで、日本語で書かれたノーマン・メイラーについての記事を見ていたら、この本がひっかかった。去年の9月に出版されているのだが、新刊情報に疎いせいで今まで見逃していたのだ。クリックし、掲載されている目次を見ると、自分の関心領域と被…

第二芸術としてのアフォリズム

俺は文芸の様式の中でも、アフォリズムや逆説といったものが嫌いだ。具体例を挙げると、アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』、芥川龍之介『侏儒の言葉』、三島由紀夫『不道徳教育講座』、シオランなど。昔、桑原武夫が俳句について「小説や近代劇と同じやう…

翻訳の世界 1992年10月号 若島正「改訳したい10大翻訳」

昔、フィリップ・ロスやナボコフの翻訳で知られる大津栄一郎のウィキペディアのページを見てみたら、「ナボコフの『賜物』の翻訳については若島正から『翻訳の世界』誌の「改訳したい小説ベスト10」で多数の誤訳を指摘されたため、「若島正氏に反論する」を…

J・D・サリンジャー 『ハプワース16、1924年』

サリンジャーが雑誌などに発表した短編小説の中には、本人が後に単行本化するのを拒否したため、封印状態になったものがいくつかある。例えば、『ライ麦畑でつかまえて』の原型となった、「マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗」や「ぼくはち…

みにくいアヒルの子症候群

本屋にいくのがつらい。本屋に行くと、自分と同世代、もしくは年下のライターとか作家とかミュージシャンとかが華々しく活躍しているのが嫌でも目に入るからだ。そして、いつまでもくすぶっている自分が悲しくなってくる。誰かの書評とか読んで、「俺の方が…

作家の性癖

人が自分の性癖を意識するのは何歳ぐらいからだろうか*1。個人的な経験から言わせてもらえば、小学校にあがる前、大体五歳ぐらいの時には、変態的な「エロ」を認識していた(詳しくは「童貞と男の娘」を読んで欲しい)。頭で自分の性癖を理解していたという…

ネルソン・オルグレンと寺山修司の出会い

ジル・クレメンツが作家たちを撮ってまとめた、『ライターズ・イメージ』という写真集を見ていたら(ちなみに、クレメンツの夫はカート・ヴォネガットで、この写真集の序文もヴォネガットが書いている)、ネルソン・オルグレンのところで、気になるものがあ…

ソール・ベロー 『ラヴェルスタイン』

ソール・ベローの小説は大学時代に『その日をつかめ』を読んで感動し、以来翻訳されたものは全て読んだが、『その日をつかめ』以外はどれも面白いとは思えなかった。ベローの小説のおおまかな特徴として、衒学的な比喩を駆使した文体、形而上学的考察、知的…

Amazonに登録されていない角川文庫の海外文学

角川文庫のイメージと言えば、やはり「読んでから見るか 見てから読むか」というキャッチコピーに代表されるように、『人間の証明』、『戦国自衛隊』などの、映画と連動した作品が最初に思い浮かぶ。今でもこの路線は続いていて、東野圭吾とかが森村誠一的な…

高崎俊夫 『祝祭の日々』

インターネットで蓮實重彦とかやや古めの映画・小説について調べている時に、よく出てくるページがあって、それが高崎俊夫の「映画アットランダム」だった。多分、最初に目にしたのは、「スーザン・ソンタグと蓮實重彦の微妙な対話」で、恐らく「映画アット…

作家の写真を読む

俺はミーハーな文学好きなので、小説だけでなく、それを書いた作家の風貌にも興味がある。しかし、出回っている写真の多くは、晩年に撮られたものだったり、パブリック・イメージを意識したものだったりで、飽き足りないものがある。例えば、岩波書店から出…

『直木賞のすべて』と選ぶ「文学賞受賞作あれこれ」選手権

サイト「直木賞のすべて」や『直木賞物語』で知られるP.L.B.こと川口則弘さんが審査員を務めた、「文学賞の受賞作をレビューする」というテーマのエッセイコンテストで落選しましたが、「選外になったものの記憶に残ったもの」という欄で川口さんからコメン…

スチュアート・ケリー 『ロストブックス』

1922年、ヘミングウェイの妻ハドリーは、スイスにいるヘミングウェイに会いに行く途中、スーツケースを盗まれた。このエピソードが有名なのは、その中に、大量の未発表原稿とそのコピーが入っていたからだ。ヘミングウェイの習作は永遠に失われることに…

独断と絶対的な自信を持って選ぶ珍伝記ベスト3

俺は伝記を読むのが好きだ。特に文学者の伝記をよく読む。 伝記というのは、そんなにはずれを引くことのないジャンルだと思う。十分な知識を持っていないと書けない分野だし、抽象的な事柄をほとんど取り扱わないから、スラスラと読んでいける。 逆に、つま…

ノーベル文学賞はポルノがお嫌い

小谷野敦『純文学とは何か』を読んだのだが、そこに「村上春樹はなぜノーベル文学賞をとれないのか」とマスコミからよく聞かれると書いてあって、「通俗小説だから」というのが小谷野の答えで、モームやグレアム・グリーンがとれなかったのも通俗小説と見做…

本当は怖い文学史

文学史関係の本を読んでいると、気がつくことが一つある。それは、文学史というのが、作品の良し悪しというよりも、いわゆる「ゴシップ」の集積で出来ているということだ。文学史につきものの「論争」に関しても、そこに行きつくまでに、複雑な人間関係を経…

ジャンキーの大部分は、隠れロマンティストだ、とアーヴィン・ウェルシュは書いた

アーヴィン・ウェルシュの小説『トレインスポッティング』には、マッティという名のエイズに感染したジャンキーが出てきて、彼は小説の終盤、トキソプラズマ症が原因の脳卒中で死ぬ。二十五歳という若さだ。マッティは下手なギタリストで、恋人のために恋の…

翻訳・新訳してほしい本

俺が読んでみたい本を選んだ。小説と作家の伝記が多い。 (間違えて、名前のあいうえお順にしてしまったが、気にしないで) フィクション・エッセイ・詩 アプトン・シンクレア The Moneychangers 作者: Upton Sinclair 出版社/メーカー: David De Angelis 発…

遠藤周作とグレアム・グリーンの「二重性」

グレアム・グリーンが遠藤周作の小説を称賛したことはよく知られている。二人にはカトリックという共通点があり、彼らの小説を語る際には、よくそのことが言及される。 カトリックであるということ以外に、二人を結び付けている共通点がもう一つある。それは…

川本三郎 『スタンド・アローン』

たまたま昔の書籍に入っていた広告を見て気になり、読んでみたのだが、これが抜群に面白かった。「今世紀初頭(20世紀)から現在まで、映画、文学、スポーツ、音楽などの分野で独自の世界を築いた個性的な男たち23人のミニ・バイオグラフィー」というの…

フィリップ・ロス原作映画ヒット祈願

今年はフィリップ・ロス原作の映画が二本も公開される。一本はIndignationで、監督は『ハルク』や『ブロークバック・マウンテン』のプロデューサーを務めたジェームズ・シェイマスだ。これが初監督作となる。シネマトゥデイによれば、内容は以下の通り。 195…

LES SPECS 1992年11月号 小沢健二×柴田元幸

小沢健二が東大時代、柴田元幸のゼミにいたことはよく知られている。小沢は1968年生まれだが、1浪しているので、大学入学は1988年。その後1留したから、卒業したのは1993年春ということになる。フリッパーズ・ギターが解散したのは大学在学中…