海外文学

A・E・ホッチナー 『パパ・ヘミングウェイ』

本書は、作家のA・E・ホッチナーが、『コスモポリタン』の編集スタッフとしてヘミングウェイに会いに行った1948年から彼が自殺する1961年までの交流を描いたメモワールで、ヘミングウェイの晩年の生活を知るうえで大変貴重な資料だ。 1948年の…

ノーマン・メイラー 『黒ミサ』

ノーマン・メイラーの『黒ミサ』(原題:Trial of the Warlock)は、これまで日本語に翻訳されてきた彼の著作の中でも、最も知名度が低い作品だと思う。メイラーの翻訳は、だいたい新潮社か早川書房から出ているが、これは集英社から出版された。もともと『…

橋本福夫 『橋本福夫著作集Ⅰ』

橋本福夫(1906-1987)と言えば、ジェームズ・ボールドウィンやリチャード・ライトといったアメリカ黒人文学の翻訳者としてのイメージが強かったのだが、彼の死後編まれた著作集の第一巻が「創作・エッセイ・日記」をまとめた物であることを知り、…

西川正身 『アメリカ文学覚え書 増補版』

本書は、アメリカ文学者で翻訳も多く手掛けた西川正身がこれまで戦前から戦後にかけて雑誌などに書いてきた、アメリカ文学に関する批評文を集めたものだ。メルヴィルやフランクリン、マークトゥインといった正統派アメリカ文学を取り上げているが、実はそう…

青春について語ることは、恥ずかしさとサリンジャーについて語ることだ

特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE 青春というのは気恥ずかしいものだ、という共通認識が世間にはある。若さゆえの過ち。だからこそ、若い時の恥ずかしい思い出は、大人になってからの恥ずかしい思い出よりも、堂々と発表できる。青春について語れと…

マドレーヌ・シャプサル 『作家の仕事場』

本書は作家としても知られるマドレーヌ・シャプサルが、自身もスタッフとして関わっている文芸誌「エクスプレス」で、1960年から1963年頃に行ったインタビューをまとめたものだ。インタビュイーは原著だと15人だが、邦訳を出すにあたって2人ほど…

宮本陽吉 『アメリカ最終出口』

アメリカ文学者で、ジョン・アップダイクやフィリップ・ロスの翻訳などをしている著者の批評的エッセイ集。タイトルは宮本自身が翻訳したヒューバート・セルビー・ジュニアの『ブルックリン最終出口』からとられているのだろう。宮本は、本書の3年前に『ア…

フィリップ・デイヴィス 『ある作家の生 バーナード・マラマッド伝』

20世紀アメリカを代表するユダヤ系作家として、よくセットで取り上げられるのがソール・ベロー(1915-2005)、バーナード・マラマッド(1914-1986)、フィリップ・ロス(1933-)だ。かつてベローはそういう状況に苛立ち、「文学版ハート・シェフナー・マーク…

止まれない男たち──「片思い」と「生きる意味」

往復書簡という形で作家のミシェル・ウエルベックとも共著を出したことがある哲学者ベルナール=アンリ・レヴィに『危険な純粋さ』(邦訳、紀伊國屋書店)という本がある。これ自体はユーゴスラビア紛争やイスラム過激派について扱った批評エッセイだが、タイ…

佐伯彰一 『批評家の自伝』

アメリカ文学者で批評家・翻訳家の佐伯彰一が死んだ。佐伯は1950年頃ウィスコンシン大学のフレデリック・J・ホフマンのもとでニュークリティシズムを学んだこともあったが、自伝・伝記を重視し、それらを紹介するようなエッセイを多数書いた。私もいく…

マドレーヌ・シャプサル編 『恋する手紙』

山本耕史が堀北真希に数十通の手紙を送ったというニュースを見て、文芸誌「エクスプレス」のスタッフとして数々の作家にインタビューを行い、後に自身も作家となったマドレーヌ・シャプサルが編集した『恋する手紙』という、前から気になっていた著作を読ん…

『五分後の世界』の元ネタと龍と蓮實の微妙な関係

「残酷な視線を獲得するために」と題された村上龍と蓮實重彦の対談(初出は「ユリイカ」臨時増刊「総特集 村上龍」青土社、1997年)で、村上は『五分後の世界』がメイラーの『裸者と死者』に影響を受けたことを明らかにしている。 僕は、ノーマン・メイラー…

ヒップかスクウェアか メイラーのリスト

このブログのアクセス解析を見たら、ノーマン・メイラー関連で訪問する人が多いので、参考までに『ぼく自身の広告』に所収されている「リスト」というのをここに引用してみたいと思う。これは何がHipで何がSquareかということを、メイラー自身が分類したもの…

ナサニエル・ウェスト 『クール・ミリオン』

まだ、全体の4分の1程度(3月25日時点)読んだところだが、ちょっと、ウェストのこの作品はひどすぎる。 分類するなら、ブラック・コメディということになるのだろうが、ヒロインの設定や地の文があまりにも低劣すぎるのだ。 なにしろ、ヒロインは冒頭数十ペ…

江藤秀一編 『晩年にみる英米作家の生き方』

図書館検索で蔵書を調べていた時に、たまたま見つけた一冊。この本を読むまで「港の人」という出版社のことは全然知らなかったのだが、鎌倉にあって文学関係の本をぽつぽつと出しているらしい。 本書はタイトルの通り、著名な英米作家の「晩年」に焦点をあて…

ヒルダ・ドゥリトル 『フロイトにささぐ』

巻き上がれ、海よ── お前のとがった松の木を巻き上げよ、 お前の巨大な松の木を、こちらの岩に はねかけよ、 お前の緑をこちらに投げつけて、 お前の樅の水たまりで蔽いつくすがいい。 「山の精」 H.D. 川本皓嗣訳(『アメリカ名詞選』岩波文庫、1993に…

タマ・ジャノウィッツ 『ニューヨークの奴隷たち』

本作は、81年に長編小説『アメリカン・ダッド』でデビューした、タマ・ジャノウィッツが86年に発表した短編小説集で、彼女の出世作でもある。デビュー以降、鳴かず飛ばずの時期を送っていた彼女だったが、『ニューヨーカー』に短編「ニューヨークの奴隷…

スティーヴ・エリクソン 「わが生涯の愛読書」

『リテレール』1992年冬号より引用。副題は「私の考えを変えたフォークナー、ミラー、ディラン」。文章は柴田元幸が翻訳している。以下リスト。 『アラビアン・ナイト』(岩波文庫) レスター・バングズ『サイコティック・リアクション・アンド・キャブ…

中村真一郎 「わが生涯の愛読書」

ここでも紹介した『リテレール』1992年冬号からのリスト。副題は「これまでに読んだ何万冊からの、とりあえずのベスト」。中村は「ひとりの著者からは一冊」という原則に基づき、リストを作っている(ところどころ出版社名が抜けているのは原文ママ)。 …

山田風太郎の愛読書

前回紹介した『リテレール』1992年冬号からの引用。副題は「勉強のためではなく、現実逃避のための読書」 モーム『人間の絆』全四巻(新潮文庫) モーム『月と六ペンス』(新潮文庫) ユゴー『レ・ミゼラブル』全七巻(岩波文庫) デュマ『モンテ・クリ…

筒井康隆 「わが生涯の愛読書」

安原顕が編集していた雑誌『リテレール』1992年冬号に載せられたもの。「仕事がらみの本を除いたオール・タイム・ベスト」という副題がついている。以下リスト(表記は原典に倣った)。 弓館芳夫『西遊記』(第一書房) 江戸川乱歩『怪人二十面相』(講…

ぼくらはカルチャー探偵団編 『読書の快楽』

安原顯が中心となって企画したブックガイド『読書の快楽』。1985年に角川文庫より出版され、その後も安原の手によって、様々なブックガイドが編まれた。 選者には、安原と付き合いのある人たちが起用されているのだが、いわゆるニューアカ関係者が多い(…

マーティン・エイミス 『モロニック・インフェルノ』

本書はイギリス人作家マーティン・エイミスによる、「アメリカ」をテーマにした批評的エッセイ集で、原著は1986年に出版された。雑誌や新聞で発表した物を寄せ集めて作られているが、本にするにあたり、当時は制約があって書けなかったことを復元したと「前…

リテレール 1993年冬号 特集 短編小説ベスト3

自称スーパー・エディター安原顯が編集していた雑誌『リテレール』1993年冬号の企画「短編小説ベスト3」。著名な作家、評論家、翻訳家に、文字通り「短編小説」のベスト3を選んでもらっている。適当に抜粋していこう。 西村孝次 エドガー・ポウ「黒猫…

考える人 2008年春号 海外の長編小説ベスト100

『考える人』2008年春号では、「海外の長編小説ベスト100」という特集を組み、「さまざまなジャンルの書き手129人」にアンケートをとっている。その結果自体はここにあるので、このサイトでは気になった個人の投票を挙げていきたい。 青木淳悟 ①百…

ハート・クレインと谷崎潤一郎のチャップリン

若くして自殺した詩人ハート・クレインに「チャップリン風に」という詩がある。 ぼくらはおずおずと順応を試みる── たとえば風が、ぶかぶかの おんぼろポケットに入れていってくれるような、 成り行きまかせの慰めなんかに満足して。 (以下略) 「チャップ…

マーティン・エイミス 『サクセス』

マーティン・エイミスの長編第三作にあたる『サクセス』は、やや特殊な構成となっていて、主人公のテリーとグレゴリーの二人が、一月から十二月に起こった出来事を交互に語っていくという形式を採用している。テリーは、六歳で母と死に別れたうえ、幼い妹が…

ビリー・ホリデイについての詩

7月17日はビリー・ホリデイの命日だが、ニューヨーク派の詩人フランク・オハラに、"The Day Lady Died"(「レイディ・デイが死んだ日」)という詩がある。レイディ・デイとはビリー・ホリデイの愛称で、"The Day Lady Died"というタイトルもそれにかけて…

青山南 『小説はゴシップが楽しい』

だいたい80年代後半から90年代前半にかけてのアメリカ文壇について書かかれたエッセイ集で、いつもの青山の通り気取らない文体で綴られている。 俺が面白い思ったのは、「マクミラン・ショック」「グレートスノッブの心意気」「ヘルマン神話が解体される…

トム・ウルフ 『そしてみんな軽くなった』

『現代美術コテンパン』、『虚栄の篝火』などで知られるトム・ウルフが、1970年代という時代について独自の視点から抉ったエッセイ集。冒頭の「夜空のキンタマ」(原題は"Stiffened Giblets")と題されたエッセイ以外は、数ページ程度の短い文章で構成さ…