青山南 『小説はゴシップが楽しい』

 だいたい80年代後半から90年代前半にかけてのアメリカ文壇について書かかれたエッセイ集で、いつもの青山の通り気取らない文体で綴られている。

 俺が面白い思ったのは、「マクミラン・ショック」「グレートスノッブの心意気」「ヘルマン神話が解体されるとき」「ギャスの作品か、ギャディスの作品か」「成功の陰に『ボツ』あり」あたり。

「マクミラン・ショック」は、テリー・マクミランという黒人女性作家(『ため息つかせて』の作者)を中心にした全米図書賞でのごたごたを書いたもの。

「グレートスノッブの心意気」では、トム・ウルフによる『セシル・ビートン伝』の書評を紹介している。ビートンはとにかく王室に入り込みたくて、写真家のアントニー・アームストロング・ジョーンズがマーガレット王女と結婚したときは悔しくて三日三晩眠れず、日記に「これほどの一大事は、わたしの人生では、空前絶後だ」と書いたという。ゲイであったが自分のステイタスを引き上げるために、グレタ・ガルボと肉体関係を持ったとも。

「ヘルマン神話が解体されるとき」は、ウィリアム・ライトによるリリアン・ヘルマンの伝記が出版された時のことを書いたもの。ヘルマン生前中、メアリー・マッカーシーがテレビで「ヘルマンの自伝は嘘が多い」というようなことを言って話題になったが、ライトの伝記もまたヘルマンの嘘を暴くものになっているようだ。ダシール・ハメットがヘルマンに暴力を振るっていたことや、ヘルマンがハメットの著作権を独占していたということなどが書かれているらしい。青山によると、映画『ジュリア』におけるヘルマンと女性レジスタンスのエピソードも嘘だったとか。

「ギャスの作品か、ギャディスの作品か」は、実験的な作風で知られる二人の作家が書評で名前をごっちゃにされた時のことを紹介したもの。ギャスの抗議文が面白い。

「成功陰に『ボツ』あり」では、作家のボツ体験について書いている。ノーベル賞をとる20年前にニューヨーカーでボツにされた「葬儀で終わる小説」とは「その日をつかめ」のことだろうか。

 雑多な文壇ゴシップが簡潔にまとめられているので読みやすい本になっている。アメリカ文壇に興味があるなら読んで損はしないだろう。

 

小説はゴシップが楽しい

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