リリー・フランキー 『日本のみなさんさようなら』

 本の中には、最初から最後まで一気に読む物もあれば、つまみ食いするようにぽつぽつと気になった部分を読んでいく物もある。俺にとって『日本のみなさんさようなら』は後者に属する本だ。

『日本のみなさんさようなら』はリリー・フランキーが約5年間にわたり「ぴあ」で連載していた映画コラム「あっぱれB級シネマ」を書籍化したものである。帯で「これは映画評ではありません」断っているように、文章は脱線が多い。時には脱線だけで終わることもある。コラムの長さはだいたい原稿用紙一枚ちょっとぐらいで、横には必ずリリーの手によるイラストが添えてあり、その下にはキャストの情報について記載されている。

 取り上げている映画は全て邦画。「ドラえもん」のようなメジャーなものから、「女囚さそり・けもの部屋」のようなものまでバラエティに富んでいる。「映画評ではありません」という帯の言葉を先に引用したが、リリーの映画を切り取る視点は鋭く、特に人物評に力を発揮しているように思える。『網走番外地・吹雪の斗走』についてのコラムから引用してみよう。

 

 スクリーンの中で高倉健が「健さん」である為の条件はヤクザ者である事と思われがちだが、それは違う。『居酒屋兆治』の時も『八甲田山』の時も健さんは健さんだった。しかし、『幸福の黄色いハンカチ』を見て”健っさん!!”と声をかける人はいない。

 この違いはどこにあるのかといえば、それは「気温」である。高倉健を「健さん」として賞味するには物語の気温設定を下げれば下げる程、いいシブ味が出ておいしくいただけるのだ。

 

 また、石原裕次郎主演の『赤いハンカチ』についてのコラムでは、「現代の日本の正義がどれほど細くなったか分かるはずだ」と書き、「若手の二枚目はごはん3杯で精進してもらいたい」と締める。この本は、そういう着眼点の面白さを楽しむものなのだ。 

 本書の中でリリーは、その映画にまつわる実生活でのエピソードも披露しているのだが、特に面白かったのは『雨月物語』についてのコラムだ。一読して欲しい。

 

日本のみなさんさようなら (文春文庫PLUS)

日本のみなさんさようなら (文春文庫PLUS)