盗作魔Circle Jerks

 元ブラック・フラッグ、キース・モリスと元レッド・クロスのグレッグ・ヘトソンが中心になって結成したパンク・バンド、サークル・ジャークスは他バンドの曲を拝借することで有名だった。『アメリカン・ハードコア』の中から、ジェフ・マクドナルドとマイク・ワットの証言を引用しよう。

 

ジェフ・マクドナルド キースがブラック・フラッグを辞めたのとグレッグが僕たちのバンドを辞めたのがちょうど同時期だったもんで、二人はすぐに自分たちのバンドを始めたんだ。レドンド・ビーチのベアーデッド・クラムでのあいつらの最初のショウを観に行ったよ。グレッグ・ギンも来てた。ショックだったのは、あいつらがやった演った曲といえば、スティーヴと僕の書いた曲とギンが書いた曲だけだったんだ。ブラック・フラッグとレッド・クロスの曲をそのまま盗んだだけってわけだ。レッド・クロスの中にはグレッグ・ヘトソンも共作した曲も何曲もあるのに、その曲はまったくやらないんだ。僕が曲を書いてあいつが詞を書いた曲なんかも、わざわざタイトルと歌詞を変えて曲はそのまま使ってたりしてたしね。だけど、グレッグ・ギンはその頃からすでに訴訟沙汰で脅しをかけるのが上手かったから、あいつらはほとんどの曲を捨てるはめになった。(中略)レコードを出す頃にはさすがに盗作はしなくなったけど、それでもいまだに耳にするとおいおいって思う曲は何曲かあるよ。(p.134)

 

マイク・ワット サークル・ジャークスね。いいやつらだしいいバンドだけど、曲はどれも盗作だよ。『Group Sex』なんて、それぞれがもといたバンドから盗んできた曲ばっかりだぜ? "Gimme Sopor"は"World Up My Ass"だし、"Annette's Got The Hits"がもとネタになってる曲もある。別に追及してどうこうしようって気はないけどね。『Group Sex』は名盤ってことになってるけど、あいつらがそれぞれのバンドからいい曲を全部持っていって、キースがそれに歌詞をつけてたってのは事実だよ。(p.135)

 

「Gimme Sopor」はアングリー・サモアンズの曲で、ベースのロジャー・ロジャーソンが一時期サモアンズに在籍していたことから、ネタ元になったのだろう。

Angry Samoans - Gimme Sopor - YouTube

Circle Jerks - World Up My Ass - YouTube

 

「Live Fast Die Young」も盗作だが、これはもう少し複雑な経路をたどっている。この曲はThe Mongrels(メンバーのJames Moreland は後にThe Leaving Trainsを結成した)というバンドの「Civilization」が元ネタで*1、The Mongrelsに少しの間在籍していたヘトソンが、レッド・クロスに移籍した後「Cover Band」というタイトルでレコーディングした。そして、レッド・クロスを脱退したヘトソンは、その「Cover Band」を、今度はモリスと一緒に「Live Fast Die Young」という曲に直して、サークル・ジャークスのレパートリーにしたのだった。

Red Cross - Cover Band - YouTube

Circle Jerks - Live Fast, Die Young - YouTube

 

 モリスは、ブラック・フラッグ在籍時にグレッグ・ギンと共作した「Wasted」と「I Don't Care」の二曲を、勝手にサークル・ジャークスの持ち歌にしたが(マクドナルドの発言を鑑みるに、この二曲以外にもあったと思われる)、こうした行為は当然ギンの怒りに触れた。

 ブラック・フラッグ側はEP『Jealous Again』に収録した「You Bet We've Got Something Personal Against You!」でモリスに反撃。この曲は「I Don't Care」の替え歌で、モリスの盗作を非難する内容になっている。ちなみに、『Jealous Again』がリリースされたのは1980年の8月で、「Wasted」と「Don't Care」が収録された『Group Sex』は同年の10月。なので、この替え歌が批判の対象としているのは、『Group Sex』ではなく、サークル・ジャークスのこれまでの行いに対してなのだろう。

Circle Jerks - Don't Care - YouTube

Black Flag-You Bet We've Got Something Personal - YouTube

 

 後に、サークル・ジャークスは、往年のヒット曲をメドレー形式でパンク風にカバーした「Golden Shower of Hits (Jerks on 45)」という曲を発表するが、あれはリリース当時、ちゃんと権利をとったのだろうか(今、発売されているCDではクリアしているだろうけど)。

Golden Shower Of Hits - Circle Jerks - YouTube

 

 余談だが、キース・モリスは昔、アンソニー・キーディスの代わりにレッチリで歌ったことがある。サークル・ジャークスはその日レッチリと対バンしていたのだが、キーディスがドラッグのやりすぎでライブをすっぽかしたからだ。  

 

Group Sex

Group Sex

 

  

Inside My Brain

Inside My Brain

 

「 Gimme Sopor」を収録

Jealous Again

Jealous Again

 

 「You Bet We've Got Something Personal Against You!」を収録