批評と流行

 マニア=オタク=批評家がにわかファンを駆逐し、流行していたものを衰退させる、という意見があるが実際は違うと思う。本当に人気のある物に対しては、批評家は完全に無力である。

 例えば、ローリング・ストーンズやポール・マッカトニーには、ものすごい知識量のオタク・ファンがついているが、コンサートはいつでも超満員だ。つまり、批評家が幅を利かせることができるのは、人気が出始める前と、人気に陰りが見え始めた後ということになる。批評に影響されるということは、それそのものが、非常に不安定な立場にあるということだ。不安定だから、批評で押し上げることもできるし、蹴り落とすこともできる。ただ、人気に火がついたら批評では止めることができないし、一度坂を転げ始めたら、それを押しとどめることも批評にはできない。15年以上経って、リバイバルということはあるが。

 批評の影響というのは、皆が思っているほど大きなものではないが、気にする人は気にするので、そのおかげで今でも雑誌やWebに批評が掲載される。まあ、ネガティブなものは数十年前と比べて激減した。今は、そういうものは個人ブログかamazonレビューでしか書けなくなっている。批判的な意見が、芸術を活性化させることもあるのだが。もっと言えば、批判で沈むくらいものは、九割がその程度でしかなかったともいえる。

 

文芸時評―現状と本当は恐いその歴史

文芸時評―現状と本当は恐いその歴史

 

批判も載せていた新聞の文芸時評が、七〇年代頃から褒め批評一辺倒になっていく過程を実証した本。