群像 1996年10月号 私の選ぶ戦後文学ベスト3

『群像』1996年10月号は、「創刊五十周年記念号」ということで、大江健三郎×柄谷行人江藤淳×秋山駿の対談や、木下順二小田切秀雄のエッセイが載っているいる。

 アンケートでは、「私の選ぶ戦後文学ベスト3」というのが企画されていて、選者は批評家や外国文学研究者として活動している人が多い。何人か引用してみよう。コメントは割愛。

 

菅野昭正

大岡昇平『レイテ戦記』

丸谷才一『裏声で歌へ君が代

大江健三郎万延元年のフットボール

 

山城むつみ

椎名麟三『重き流れのなかに』

野間宏『暗い絵』

森有正『経験と思想』

 

井口時男

小林秀雄ゴッホの手紙」

秋山駿「内部の人間の犯罪」

柄谷行人寒山拾得考」

 

富岡幸一郎

三島由紀夫『英霊の声』

森敦『われ逝くもののごとく』

桶谷秀昭『昭和精神史』

 

渡辺廣士

大江健三郎『燃えあがる緑の木』

三島由紀夫『豊穣の海』

埴谷雄高『死霊』

 

大杉重男

埴谷雄高『死霊』

江藤淳夏目漱石

大江健三郎『政治少年死す』

 

川西政明

埴谷雄高『死霊』

武田泰淳ひかりごけ

大江健三郎『飼育/芽むしり仔撃ち』

 

宇野邦一

深沢七郎楢山節考

古井由吉『杳子』

吉本隆明『書物の解体学』

 

亀井秀雄

A吉本隆明『言語にとって美とはなにか』

B大西巨人神聖喜劇

C司馬遼太郎坂の上の雲

 

松原新一

本多秋五『物語戦後文学史

広津和郎『松川裁判』

佐多稲子『時に佇つ』 

 

曽根博義

伊藤整日本文壇史

大江健三郎万延元年のフットボール

井上靖『本覚坊遺文』

 

川村湊

梅崎春生『幻化』

中井英夫『虚無への供物』

中上健次千年の愉楽』 

 

清水良典

島尾敏雄『夢の中での日常』

三島由紀夫『美しい星』

大江健三郎『われらの時代』

 

いいだもも

金達寿玄海灘』

李恢成『見果てぬ夢』

金石範『火山島』

 

高橋英夫

大岡昇平『野火』

河上徹太郎『私の詩と真実』

吉田健一『金沢』

 

渡部直己

大西巨人神聖喜劇

深沢七郎『風流夢譚』

中上健次枯木灘

 

勝又浩

島尾敏雄『夢の中での日常』

小島信夫抱擁家族

藤枝静男『空気頭』 

 

佐伯彰一

谷崎潤一郎『瘋癲老人日記』

川端康成眠れる美女

三島由紀夫『近代能楽集』

 

野口武彦

石川淳『至福千年』

大岡昇平『堺港攘夷始末』

武田泰淳『富士』

 

松本健一

梅崎春生桜島』もしくは『幻化』

谷川雁『大地の商人』

司馬遼太郎坂の上の雲』 

 

奥野健男

太宰治人間失格

三島由紀夫仮面の告白

島尾敏雄『夢の中での日常』

 

加藤典洋

村上春樹世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

大岡昇平『武蔵野夫人』

大江健三郎『空の怪物アグイー』

 

大橋健三郎

小島信夫抱擁家族

2大庭みな子『三匹の蟹』

中上健次枯木灘』 

 

千石英世

小島信夫抱擁家族

福田恆存『人間・この劇的なるもの』

谷川俊太郎『鳥羽』

 

饗庭考男

大岡昇平『武蔵野夫人』

井伏鱒二『黒い雨』

中上健次枯木灘』 

 

絓秀実

花田清輝『錯乱の論理』

大西巨人神聖喜劇

③中村福治『戦時下抵抗運動と「青年の環」』

 

島弘之

小林秀雄「『白痴』について」Ⅱ

西脇順三郎『失われた時』

三島由紀夫仮面の告白

 

 ぱっと見、大江健三郎大岡昇平大西巨人三島由紀夫中上健次が別格か。佐伯彰一が川端と谷崎を選んでいるけど、全体的に、「戦後に発表された文学」というよりかは、「戦後に活動を始めた文学者の作品」が選ばれている。

 個人的に驚いたのは、梅崎春生の評価が高いこと。逆に、村上春樹は加藤しか選んでいない。多分、世代的なものが大きく現れているのだろう。

 島尾敏雄は『死の棘』ではなく、『夢の中での日常』を選んでいるのが、3人もいる。どうやら批評家受けのする小説のようだ。

 

 

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