群像 1960年8月号 戦後の小説ベスト5
『群像』1960年8月号では、戦後から15年経ったことを節目とし、文学者たちに戦後の小説ベスト5を選んでもらうという企画を行った。作家だけでなく、評論家や外国文学研究者もいる。また、佐藤春夫や梅崎春生、小島信夫のように、様々な理由をつけてベスト5選出を拒否した人もいる。以下、リスト(本文は正字正かな)。
武者小路実篤『真理先生』
室生犀星『かげろうの日記遺文』
井伏鱒二『漂民宇三郎』
川端康成『山の音』
椎名麟三『邂逅』
中村真一郎『死の影の下に』
堀田善衛『時間』
石川淳『黄金伝説』周辺の短編
大岡昇平『俘虜記』周辺の短編
安部公房『壁』
武田泰淳『風媒花』
中野重治『むらぎも』
「これらは、戦後の第一期、占領時代を代表する作品である。戦後の第二期の文学はいまつくられつつあるものであると信じる」
安岡章太郎『海辺の光景』
室生犀星『かげろうの日記遺文』
川端康成『山の音』
大岡昇平『野火』
大岡昇平『野火』
石川淳『紫苑物語』
林房雄『賭博物語』
川端康成『山の音』
大岡昇平『野火』
武田泰淳『異形の者』
永井龍男『一個』
原民喜『夏の花』
小島信夫『鬼』
大岡昇平『野火』
梅崎春生『砂時計』
安岡章太郎『海辺の光景』
上林暁『病妻物語』
尾崎一雄『痩せた雄鶏』
外村繁『夢幻泡影』
吉行淳之介『娼婦の部屋』
安岡章太郎『海辺の光景』
「以上、著者から頂いた本の中から、選んでみました」
佐藤春夫『戦国佐久』
川端康成『山の音』
正宗白鳥『日本脱出』
野間宏『暗い絵』
埴谷雄高『死霊』
中野重治『むらぎも』
高浜虚子『虹』
大佛次郎『帰郷』
長與善郎『その夜』
室生犀星『杏つ子』(「蜜のあはれ」)
伊藤整『氾濫』(「鳴海仙吉」)
野上弥生子『迷路』
中村真一郎『夜半楽』
大岡昇平『野火』
武田泰淳『風媒花』
石川淳『紫苑物語』
川端康成『みづうみ』
高見順『この神のへど』
伊藤整『氾濫』
福永武彦『風土』
三島由紀夫『禁色』
「注・谷崎潤一郎「細雪」、大岡昇平「野火」、野間宏「青年の環」、加藤周一「運命」、この四作は夫々特別な理由があって考慮の外におきました」
椎名麟三『深夜の酒宴』
野間宏『顔の中の赤い月』
石原慎太郎『灰色の教室』
大岡昇平『野火』
中野重治『五勺の酒』
野間宏『崩壊感覚』
伊藤整『鳴海仙吉』
芝木好子
三島由紀夫『禁色』
大田洋子『半人間』
大岡昇平『野火』
野間宏『真空地帯』
西村考次
石川達三『人間の壁』
大岡昇平『俘虜記』
野間宏『真空地帯』
川端康成『山の音』
伊藤整『鳴海仙吉』
野間宏『真空地帯』
吉行淳之介『灰色の街』
野上弥生子『迷路』
大岡昇平『俘虜記』
開高健『パニック』
梅崎春生『日の果て』
大岡昇平『野火』
吉行淳之介『驟雨』
安岡章太郎『海辺の光景』
井伏鱒二『遥拝隊長』
伊藤整『鳴海仙吉』
川端康成『名人』
太宰治『斜陽』
尾崎一雄『虫のいろいろ』
大岡昇平『俘虜記』
埴谷雄高『死霊』
三島由紀夫の作品一つ
伊藤整の作品一つ
椎名麟三の作品一つ
中野重治の作品一つ
坂口安吾『白痴』
大岡昇平『野火』
伊藤整『裁判』
川端康成『みづうみ』
安岡章太郎『海辺の光景』
川端康成『みづうみ』
石川淳『紫苑物語』
室生犀星『杏つ子』
中野重治『梨の花』
大岡昇平『野火』
平林たい子『人の命』
川端康成『山の音』
大岡昇平『野火』
佐藤春夫『女人焚死』
野間宏『崩壊感覚』
大岡昇平『野火』
椎名麟三『重き流れのなかに』
大江健三郎『芽むしり 仔撃ち』
(特別付加)
島尾敏雄『夢の中の日常』
大岡昇平『野火』
大江健三郎『芽むしり 仔撃ち』
林芙美子『晩菊』
大田洋子『屍の街』
壺井栄『裲襠』
大原富枝『婉という女』
正宗白鳥『今年の秋』
伊藤整『鳴海仙吉』
埴谷雄高『死霊』
大岡昇平『俘虜記』
野間宏『崩壊感覚』
野間宏『暗い絵』
大岡昇平『俘虜記』
中野重治『梨の花』
円地文子『傷ある翼』
大原富枝『婉という女』
野間宏『真空地帯』
武田泰淳『風媒花』
堀田善衛『広場の孤独』
梅崎春生『砂時計』
大岡昇平『野火』
野間宏『真空地帯』
中野重治『梨の花』
佐多稲子『灰色の午後』
花田清輝のエッセイ
椎名麟三の戯曲その他
島尾敏雄の初期の短編
石川淳の諸短編
堀田善衛の鬼無鬼島
戦後文学=野火といいたくなるぐらい、『野火』の人気がすごい。俺は『俘虜記』の方が好きだが、『俘虜記』もかなり見当していて、戦争文学では大岡昇平の一人勝ちといった様相。また、野間宏や、椎名麟三、武田泰淳の人気は時代の空気を感じさせる。意外なところでは、伊藤整の『鳴海仙吉』か。第三の新人の作品では、安岡章太郎の『海辺の光景』がやたら評価されている。川端康成の『山の音』は妥当。
面白かったのは、谷崎の場合で、作家は『少将滋幹の母』を好み、批評家・学者は『細雪』を評価するという分かれ方。『瘋癲老人日記』は翌年の作品だが、これが対象となっていたらまた結果は違っただろうか。
参考