図書館に本を寄贈してみた

 6月25日にボーナスが入った。その少し前から使いみちを考えていたのだが、コロナの影響もあり、生まれて初めて、「社会に役立つことがしたいなぁ」と思い、いくらか寄付することに決めた。そして、ボーナスの額をきちんと確認してから、寄付に使う金額をきっちり決め、ネットで色々検索してみた。その間、「あぁ、俺は今社会に役立とうとしている!」とドーパミンが奔流のごとくドバドバと放出され、普段から寄付とかボランティアをしている人間の気持ちが分かった。

 さて、寄付をするといっても、面倒くさいことが大嫌いな自分は、何かしらの手続きが間に入ってこないようなものを探した。すると、今はAmazonの欲しいものリストを使って、寄付を募っているところがあったりして、や、これは便利だと思ったが、「ここだ!」というところがなかなか見つからなかった。

 そのうち、「そういえば、図書館って本の寄贈を受け付けていたよな」ということを思い出した。もちろん、どんな本でも受け入れているはずがなく、以前練馬区の図書館を訪れた際、リサイクルコーナーに寄贈されたらしき自費出版本や古い文庫本が山積みになっているのを目撃したことがある。自分が唯一発見した寄贈本は、同じ練馬区の図書館にあった『昭和文学作家史 二葉亭四迷から五木寛之まで (別冊一億人の昭和史)』で、結構ボロボロだったのだが、新刊本として出たときに寄贈されたのだろうか。

 とにかく、普段から図書館を利用しまくっている自分としては、そこに貢献できると想像するだけでも、非常に気分が良かった。「文化事業」に自分が参入しているような気持ちになれた。一人メセナだ。

 寄贈先の候補となる図書館は三つほどあった。まず、俺の地元である埼玉県和光市図書館。和光市図書館の蔵書は貧弱で、俺の家からも遠いことから、全然利用していなかったのだが、和光市からある支援を受けたことがあったので、それに対する恩返しのつもりで、第一候補にしたのだった。

 和光市図書館のホームページに飛び、寄贈について書かれたページを見ると、「現在ベストセラーなど、図書館で予約の多い本」、「新刊図書(最近1年以内に出版されたもの)」などのルールが決められていた。次に、板橋区図書館を見ると、「比較的最近に出版されたもので、汚破損、書き込みのない図書資料」と、和光市に比べやや条件が緩和されている。最後に練馬区図書館を確認すると、「比較的最近に出版されたもので、図書館資料として一定の利用が予測されるもの」、「類書が無く図書館資料として貴重なもの」などと書いてあった。ルールを比較した結果、板橋区図書館を寄贈先に選んだ。

 実は、寄贈をすると決めた時、自分もその本を利用してやろうと考えていた。俺の部屋の本棚は少し前からキャパシティを完全にオーバーし、新たに買った本はすべて床に積まなければならない状態で、家族からは「床が抜けるからやめろ」と責められ続け、肩身の狭い思いをしていた。そこで、図書館を俺の本棚にしてしまおうと目論んだのだ。だから、寄贈する本は、「図書館が所有していないもの」と「自分が読みたいもの」という二つの条件を満たすものでなければならなかった。そのため、ベストセラー本は最初から論外だった。結局、自分が選んだのは、

 

田中雄二『AKB48とニッポンのロック ~秋元康アイドルビジネス論』2019年

サイモン・シネック『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』2012年

 

 初めての寄贈なので、どのような本なら確実に架蔵されるのか確かめるつもりもあって、この二冊にした。田中の方は去年出版と「比較的最近に出版されたもの」という条件に当てはまり、「AKB48」というメジャーなテーマが、公立図書館好みと考えた。シネックのものは、出版時期はやや古いものの、TEDから生まれた人気のビジネス書(Amazonで星が95もついている)で、板橋区の図書館が架蔵していないのが不思議なくらいだった(練馬は1冊持っている)。そして、田中・シネック共に、別の著書は板橋区図書館に架蔵されているため、突飛な選択ではないと判断した。

 こうして、俺はその二冊を新品で書い、板橋区の某図書館に持ち込んだ。6月の末日だ。本を寄贈したいと伝えると、図書館員から「本の扱いはこちらで決めるが大丈夫か?」と確認された。OKすると、寄贈申込書を書かされ、それが済むと、寄贈について感謝の言葉が印刷された薄い小さな紙をもらった。俺は「いいことすると、気分がいいなぁ」と鼻歌を歌いつつスキップで図書館を出た。

 それから毎日板橋区図書館のOPACを検索して、寄贈した本が架蔵されていないかチェックした。架蔵された瞬間、まず自分が借りるつもりだった。俺の善行の証をこの目で見たかった。俺は待ちに待ち続けた……

 そして、1ヶ月経過した。ここまで来たら答えは一つしかなかった。あの二冊はあっさり処分されたのだと。せめてリサイクルコーナーに置かれて、興味を持った誰かに拾われてればいいな、と思った。さようなら、私の本よ! 俺は中古で寄贈したものと同じ本を買った。