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ビリー・ホリデイについての詩

 7月17日はビリー・ホリデイの命日だが、ニューヨーク派の詩人フランク・オハラに、"The Day Lady Died"(「レイディ・デイが死んだ日」)という詩がある。レイディ・デイとはビリー・ホリデイの愛称で、"The Day Lady Died"というタイトルもそれにかけているのだろう。ちなみに彼女に「レイディ・デイ」というあだ名を付けたのは、レスター・ヤングらしい。

 

十二時二十分 ニューヨーク 金曜日

バスチーユ襲撃記念日の三日後 そう

年は一九五九年 靴磨きに外出する

四時十九分の列車で七時十五分

イーストハンプトン着 それから晩餐会に出席の予定だからだ

だれのおごりかは知らない

日光浴を始めた暑苦しい通りを通って

ハンバガーと麦芽ミルクのひるめし

醜悪な装丁のニュー・ワールド・ライティングを買って

ガーナ詩人の最近の動向を読む

              銀行に入ると

ミス・スティルゴンがいて(名前はリンダって言ったな)

おれの通帳の残高を覗かなかったのはこれが初めてだった

ゴールデン・グリフィンではパッチィのために

ボナールの挿し絵付きのヴェルレーヌ小詩集を買う

リッチモンドラティモア訳のヘシオドスにするか

ブレンダン・ビーアンの新作劇にするかジュネの「バルコニー」か

「黒人たち」かも考えたがそれは買わず あれこれ迷って

ぼうっとなったところでヴェルレーヌに決める

マイクのためにはパーク・レインの酒店に

入りこんでストレーガひと瓶だけ注文

また道を元に戻って六番街の

ジーグリード劇場脇のたばこ屋に来て

ゴロワーズ一カートン ピキューン一カートンなにげなしに買ったあと

レイディ・デイの顔写真が第一面のニューヨーク・ポストを買う

そしてもう汗だくのまんま むかしファイブ・スポットの

トイレの戸に寄りかかっていたときのことを思いだした──

彼女はマル・ウォルドンが弾く鍵盤にささやくように歌を歌って

聴衆のみんな そしておれも 息を呑んだものだった

 「レイディ・デイが死んだ日」フランク・オハラ 沢崎順之助訳(『アメリカ現代詩101人集』思潮社

 

アメリカ現代詩101人集

アメリカ現代詩101人集

 

 


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