日本文学

不遇な芸術家伝説を目指して

一年ほど前、『マッチングアプリの時代の愛』という小説を書いて、ブログで発表したことがある。恐らく、これを自発的に読んでくれた人は、5人もいないと思う。マッチングアプリというのが社会的にある程度ホットな話題で、ツイッターなんかではそれを扱った…

秋草俊一郎 『「世界文学」はつくられる 1827-2020』

ある小説が優れていることについて、「これは世界文学だ!」と表現する人がいて、自分はそれを見るたびに苛立っていた。まず、「世界文学」という言葉は昨今あまりにも乱用されており、それ自体既にクリシェと化しているのにも関わらず、そこに気づかない非…

作家の写真を読む③

これまで、「作家の写真を読む」、「作家の写真を読む②」と二回、主に文学者を被写体に選んだ写真集を紹介してきたのだが、ついにこの試みも三回目となる(だからといって、特別なにかあるわけじゃないけど)。ただ、前二回と違い、今回は作家の日常を写した…

本当は怖い文学賞

文学賞というのは表向きその本の実力によって選ばれていることになっているが、無論、人間がやっていることなので、1から10までフェアということは有り得ない。『万延元年のフットボール』が谷崎潤一郎賞をとるという納得のいく結果もあれば、功労賞としか思…

なぜ村松剛は三島由紀夫の同性愛を否定したのか?

「三島由紀夫=ゲイ」という等式を疑う人は、今ではほとんどいないと思われる。俺も三島由紀夫の文章や、彼について書かれた物を読む時は、そのこと意識している。というか、半ば常識として捉えているといったほうが正しいか。 だから、週刊誌『平凡パンチ』…

「文壇史」を書けなかった坪内祐三

坪内祐三が死んだ時、毎日新聞に追悼文が出て、見出しに「無頼派」という言葉が使われていた。 自分はそれを見て、ひどく違和感を覚えた。なぜなら、俺の中での坪内祐三とは、早稲田大学図書館で明治時代の雑誌を渉猟する人であり、『変死するアメリカ作家た…

堀田善衛窃盗事件の真相?

以前、小谷野敦のブログで堀田善衛が窃盗で捕まったことを伝える新聞記事の引用を読んだ。 jun-jun1965.hatenablog.com 以来、そのことが記憶の片隅にあったのだが、先日、読売新聞で文化部の記者だった竹内良夫の『文壇のセンセイたち』という本を読んでい…

作家の写真を読む②

以前、ブログで「作家の写真を読む」という記事を書いたことがある。作家を被写体にした写真集の紹介だ。今回はそれの続きを書こうと思う。俺がどういう写真を好んでいるかということについては、前回の記事を参考にしてほしい。 相田昭 『作家の周辺』 相田…

石原慎太郎 坂本忠雄 『昔は面白かったな 回想の文壇交友録』

石原慎太郎が文壇について書いたもので、俺がまず思い出すのは、『わが人生の時の人々』に収められた「水上勉を泣かした小林秀雄」で、これは酒席で酒乱の小林秀雄に絡まれていた水上勉を、小林を論破するという形で助け出したら、逆に小林から気に入られた…

「教祖」から抜け出すことの難しさ

教祖化する文筆家というのがいる。横光利一とか、小林秀雄とか、吉本隆明、柄谷行人とかだ。彼らはみな晦渋な文章を書いたという共通点があるが、それだけではない。難解であるというだけでは、「教祖」になることはできない。教祖になるために必要なのは、…

芥川賞をとれなくて発狂した人

ってブログに小説をあげ、誰にも読まれていないにも関わらず、わざわざ自費出版までした私のことではないです。私はまだ発狂していません。自意識肥大、発狂寸前、入院秒読み、人生9回裏2アウト、といったところです。世界に忘れられたアラサーとして今日…

第二芸術としてのアフォリズム

俺は文芸の様式の中でも、アフォリズムや逆説といったものが嫌いだ。具体例を挙げると、アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』、芥川龍之介『侏儒の言葉』、三島由紀夫『不道徳教育講座』、シオランなど。昔、桑原武夫が俳句について「小説や近代劇と同じやう…

群像  1960年8月号 戦後の小説ベスト5

『群像』1960年8月号では、戦後から15年経ったことを節目とし、文学者たちに戦後の小説ベスト5を選んでもらうという企画を行った。作家だけでなく、評論家や外国文学研究者もいる。また、佐藤春夫や梅崎春生、小島信夫のように、様々な理由をつけてベスト5選…

小説家で打線を組んでみた

「〇〇で打線を組んでみた」という、5ch(特になんj)でよく使われているネタがある。野球を知らない人には、細かく説明しても無駄だろうから、本質的なことだけをかいつまんで言うと、野球のルールとセオリーを異分野に適用し、その中でどれだけ突っ込まれ…

藤森安和 『15才の異常者』

大江健三郎の「政治少年死す(「セヴンティーン」第二部)」は、1961年『文學界』2月号に掲載されたが、右翼の抗議にあい、出版社側が謝罪したため、2018年7月に『大江健三郎全小説3』に収録されるまで、長らく単行本未収録の封印作品となっていた。 実は、…

中上健次が選ぶ150冊

中上健次の没後出版された『現代小説の方法』という本は、彼の講演をまとめたものだが、最後におまけのような形で、「中上健次氏の本棚──物語/反物語をめぐる150冊」という章があって、中上が選んだ150冊の本のリストが載っている。元々は、1984年に、「東…

みにくいアヒルの子症候群

本屋にいくのがつらい。本屋に行くと、自分と同世代、もしくは年下のライターとか作家とかミュージシャンとかが華々しく活躍しているのが嫌でも目に入るからだ。そして、いつまでもくすぶっている自分が悲しくなってくる。誰かの書評とか読んで、「俺の方が…

三島由紀夫が旅行記に書かなかったこと

先月、「右翼」の三島由紀夫が初の岩波文庫入りということで、話題になった(まあ、海外の著者なら、既にエドマンド・バークとかも入っているが)。中身が旅行記だったので、特に興味もなかったが、水声社のヘンリー・ミラー・コレクション『対話・インタヴ…

作家の性癖

人が自分の性癖を意識するのは何歳ぐらいからだろうか*1。個人的な経験から言わせてもらえば、小学校にあがる前、大体五歳ぐらいの時には、変態的な「エロ」を認識していた(詳しくは「童貞と男の娘」を読んで欲しい)。頭で自分の性癖を理解していたという…

ネルソン・オルグレンと寺山修司の出会い

ジル・クレメンツが作家たちを撮ってまとめた、『ライターズ・イメージ』という写真集を見ていたら(ちなみに、クレメンツの夫はカート・ヴォネガットで、この写真集の序文もヴォネガットが書いている)、ネルソン・オルグレンのところで、気になるものがあ…

遠藤周作 vs 三島由紀夫──サドを巡って──

縄張り争いというのは、あらゆる生物に共通する、最もポピュラーな戦いの一つだ。また、縄張りは、物理的な物に限らず、例えば同じ分野の研究者同士が途轍もなく仲が悪かったりする。作家にしても、関心領域が近いと、争いに発展しやすい。 ただし、作家同士…

中上健次と「文壇」

「文壇」というものを体現していたのは中上健次が最後だ、ということはよく言われる。それは、中上が俗に文壇バーと呼ばれる場所で大いに暴れ、そして、その行為自体が一つの「批評」として受け止められていたからだ。角川書店時代に中上と付き合いのあった…

小林秀雄の暴力性

昭和の文壇で作家に最も恐れられた批評家といえば、小林秀雄だろう。とは言っても、彼について書かれた様々なエピソードを読む限り、その恐ろしさは、あの論理の飛躍した文体の持つカリスマ性だけでなく、もっと直接的な「暴力」によっても支えられていたの…

ペアーズで最も女性人気のある作家は誰だ!

先日、あまりにもモテないのでとうとうペアーズに登録してみた。実際に使うのはもう少し先にしようと思っているが(プロフィール使える他撮りと金がない……)、無料会員でもコミュニティは覗けるので、偵察がてら色々見てみた。ちなみに、ペアーズをやってい…

作家の写真を読む

俺はミーハーな文学好きなので、小説だけでなく、それを書いた作家の風貌にも興味がある。しかし、出回っている写真の多くは、晩年に撮られたものだったり、パブリック・イメージを意識したものだったりで、飽き足りないものがある。例えば、岩波書店から出…

文學界 1967年8月号 作家が選んだ戦後文芸評論ベスト20

『文學界』1967年8月号では、「作家が選んだ戦後文芸評論ベスト20」という特集を組んでいる。初めに、磯田光一司会で、野間宏、中村真一郎、小島信夫、大江健三郎らによる座談会(「作家にとって批評とは何か」)があり、その結びとして、読者に勧める文芸…

群像 1974年1月号 批評家33氏による戦後文学10選

『群像』1974年1月号では、「戦後文学」に関する特集が組まれており、「批評家33氏による戦後文学10選」というアンケートと、秋山駿・磯田光一・柄谷行人・川村二郎・上田三四二らによる座談会「戦後文学を再検討する」という企画が組まれている。ここに…

群像 1996年10月号 私の選ぶ戦後文学ベスト3

『群像』1996年10月号は、「創刊五十周年記念号」ということで、大江健三郎×柄谷行人、江藤淳×秋山駿の対談や、木下順二、小田切秀雄のエッセイが載っているいる。 アンケートでは、「私の選ぶ戦後文学ベスト3」というのが企画されていて、選者は批評…

ジョン・ネイスン 『ニッポン放浪記』

ジョン・ネイスンは三島の『午後の曳航』や大江の『個人的な体験』の翻訳者であり、映画『サマー・ソルジャー』の脚本家であり、アーティスト小田まゆみの元夫でもある。 しかし、僕にとってはやはり『三島由紀夫─ある評伝─』の作者だ。ネイスンの三島伝は、…

「舞姫」を批判する男はモテるのか?

森鴎外の短編「舞姫」は、教科書に掲載され、鴎外の作品の中で最も人口に膾炙したものだろうが、エリートの男が留学先で女を身勝手に捨てるという不道徳な内容から、発表当初より批判があり、また鴎外本人の身に起きたことを小説化していたため、小説・作家…