2014-01-01から1年間の記事一覧

江藤秀一編 『晩年にみる英米作家の生き方』

図書館検索で蔵書を調べていた時に、たまたま見つけた一冊。この本を読むまで「港の人」という出版社のことは全然知らなかったのだが、鎌倉にあって文学関係の本をぽつぽつと出しているらしい。 本書はタイトルの通り、著名な英米作家の「晩年」に焦点をあて…

ヒルダ・ドゥリトル 『フロイトにささぐ』

巻き上がれ、海よ── お前のとがった松の木を巻き上げよ、 お前の巨大な松の木を、こちらの岩に はねかけよ、 お前の緑をこちらに投げつけて、 お前の樅の水たまりで蔽いつくすがいい。 「山の精」 H.D. 川本皓嗣訳(『アメリカ名詞選』岩波文庫、1993に…

フォルカー・シュレンドルフ 『バール』

ブレヒトの同名戯曲を映画化した、シュレンドルフ監督の『バール』を見終えて、まず胸に浮かんだのは、「陰惨」という言葉だった。主演は、当時頭角を現しつつあった、R・W・ファスビンダー。彼は、バールという名の、新進気鋭の詩人を演じている。冒頭、…

盗作魔Circle Jerks

元ブラック・フラッグ、キース・モリスと元レッド・クロスのグレッグ・ヘトソンが中心になって結成したパンク・バンド、サークル・ジャークスは他バンドの曲を拝借することで有名だった。『アメリカン・ハードコア』の中から、ジェフ・マクドナルドとマイク…

タマ・ジャノウィッツ 『ニューヨークの奴隷たち』

本作は、81年に長編小説『アメリカン・ダッド』でデビューした、タマ・ジャノウィッツが86年に発表した短編小説集で、彼女の出世作でもある。デビュー以降、鳴かず飛ばずの時期を送っていた彼女だったが、『ニューヨーカー』に短編「ニューヨークの奴隷…

『イアン・ブルマの日本探訪』と『病む女はなぜ村上春樹を読むか』

イアン・ブルマの『イアン・ブルマの日本探訪』には、「村上春樹 日本人になるということ」という、村上へのインタビューをもとにして構成した記事がある(初出は『ニューヨーカー』1996年12月23日号)。個人的なこと、特に家族について詳しく語りた…

Black Flag  『The Complete 1982 Demos』

Damaged Released: 1981 12月 My War Released: 1984 3月 Family Man Released:1984 9月 Slip It In Released: 1984 12月 Loose Nut Released: 1985 5月 In My Head Released: 1985 10月 上に掲げたのは、Black Flagのディスコグラフィの一部だが、気になる…

南沢奈央と握手会

握手会というのにこれまで人生で一回だけ行ったことがある。 大学2年の時、たまたま深夜にテレビをつけたら『コレってアリですか?』という番組をやっていた。日常で遭遇するようなちょっとしたむかつく出来事を、芸人や俳優がコント形式で再現するバラエテ…

シネマ・ハンドブック 2012

ツタヤの店舗などで売られている、映画のガイドブック。今はどうだか知らないけれど、昔はたしか200円分のTポイントと交換だったような気がする。 中身は、2011年の売れ筋を紹介した「洋画トップ50」、「邦画トップ20」や著名人が簡単な解説をつ…

周防正行 『舞妓はレディ』

周防正行監督作『舞妓はレディ』の公式サイトを見ると、「監督コメント」の項で、周防自身が、本作品の骨格について、「ファンタジー」、「エンタテイメント」という言葉を使い、簡単に説明している。ここでいう「エンタテイメント」とは、「建て直し」のこ…

『芥川賞について話をしよう 2010年下期~2013年下期』読者書評

週刊読書人 2014年9月5日号に掲載されました。 週刊読書人2014年9月5日号◇座談会=小谷野敦・栗原裕一郎対談 ―芥川賞について話をしよう第六弾<文学はこのまま壊びゆく運命にあるのか> 週刊読書人2014年9月5日号◇座談会=小谷野敦・栗原裕一郎対談 ―芥川賞…

今野裕一 『ペヨトル興亡史─ボクが出版をやめたわけ』

ペヨトル工房が2000年に解散した時、俺はまだ小学生だったから当然リアルタイムでは接していないのだが、ウィリアム・バロウズやJ・G・バラードの翻訳書を出していたという事で後にその名前を知った。『夜想』や『WAVE』が取り上げていたことと、…

スティーヴ・エリクソン 「わが生涯の愛読書」

『リテレール』1992年冬号より引用。副題は「私の考えを変えたフォークナー、ミラー、ディラン」。文章は柴田元幸が翻訳している。以下リスト。 『アラビアン・ナイト』(岩波文庫) レスター・バングズ『サイコティック・リアクション・アンド・キャブ…

中村真一郎 「わが生涯の愛読書」

ここでも紹介した『リテレール』1992年冬号からのリスト。副題は「これまでに読んだ何万冊からの、とりあえずのベスト」。中村は「ひとりの著者からは一冊」という原則に基づき、リストを作っている(ところどころ出版社名が抜けているのは原文ママ)。 …

山田風太郎の愛読書

前回紹介した『リテレール』1992年冬号からの引用。副題は「勉強のためではなく、現実逃避のための読書」 モーム『人間の絆』全四巻(新潮文庫) モーム『月と六ペンス』(新潮文庫) ユゴー『レ・ミゼラブル』全七巻(岩波文庫) デュマ『モンテ・クリ…

筒井康隆 「わが生涯の愛読書」

安原顕が編集していた雑誌『リテレール』1992年冬号に載せられたもの。「仕事がらみの本を除いたオール・タイム・ベスト」という副題がついている。以下リスト(表記は原典に倣った)。 弓館芳夫『西遊記』(第一書房) 江戸川乱歩『怪人二十面相』(講…

シドニー・ルメット 『蛇皮の服を着た男』

南部、没落、抑圧、退廃、不能、暴力、アルコール…… これらは、テネシー・ウィリアムズの戯曲の特徴である。ウィリアムズは、そこに、詩情に満ちたセリフを被せ、象徴的な小道具を配置することで、彼独自の世界を構築する。だが、逆に言えば、ウィリアムズの…

別冊宝島編集部編 『プロ野球スキャンダル事件史』

宝島から出ているということで、かなりどぎつい中身だったりするのかな、なんて思ったが、意外とそうでもなかった。基本的には、野球界のトラブルについて解説したもので、記述はどれも冷静だ。 ボクが面白いと思ったのは、「巨人軍監督解任劇舞台裏」「桑田…

R・W・ファスビンダー 『ホワイティ』

西部劇は、その社会から逸脱した人間、すなわちアウトサイダーの侵入によって、物語が始まる。そして厳重に秘匿されていた共同体の闇が、その口数少ない人物の「行動」によって徐々に暴かれる。だが、この基本条項を、冷たく裏切ることで生まれた、悪意に満…

『日本プロ野球事件史―1934ー2013』

2013年にベースボール・マガジン社から出た、野球界のトラブルに焦点をあてたムック本。深い考察をするというよりかは、数で勝負といった感じだけど、大きな事件から小さな事件まで網羅しているので、事典的な使い方ができ、手元にあると重宝しそう。 も…

ぼくらはカルチャー探偵団編 『読書の快楽』

安原顯が中心となって企画したブックガイド『読書の快楽』。1985年に角川文庫より出版され、その後も安原の手によって、様々なブックガイドが編まれた。 選者には、安原と付き合いのある人たちが起用されているのだが、いわゆるニューアカ関係者が多い(…

Universal Congress Of 『The Sad and Tragic Demise of Big Fine Hot Salty Black Wind』

Saccharine TrustのギタリストだったJoe Baizaが、Saccharine Trust解散後に組んだバンド、Universal Congress Ofの4枚目のアルバム(最初の2枚は、アルバムと言えるほど曲が収録されていないのだが)。前作まではSSTからのリリースで、本作からフリー・ジ…

プロ野球──データと書籍

ボクは小学5年生になった頃、パワプロなどのゲームから野球に関心を持つようになったのだが、その時から試合そのものより、選手の成績とかに興味を持つことが多かった。まあ、オタクだったわけだ。当時(2000年代前半)は、ネット上における野球のデー…

ディスクガイドと音楽遍歴

ボクがこれまで参考にしてきたディスクガイドを簡単に紹介しようと思う。特に理由はない(笑)。 1『Newsweek (ニューズウィーク日本版別冊) ロックこそすべて! ロック生誕50周年記念号』阪急コミュニケーションズ 2005年 BSでやっていた洋楽のPVを…

消えた金井美恵子インタビュー

1985年に福武書店から出版された金井美恵子の『文章教室』(初出は『海燕』83年12月号から84年12月号)は、87年には同出版社から文庫化され、その際、「『文章教室』では何を習うべきか」と題された金井へのインタビューが追加された。聞き手…

みうらじゅん 『やりにげ』

新潮OH!文庫から出版された時には、「日本文学史上に屹立する、Hなじゅん文学! 」というすごいサブタイトルがつけられていた本書。単行本版の表紙にはデッドベアが使われていた。 内容紹介を見て、「みうらじゅんの私小説なのかな」と思って読んだのだが、そ…

町山智浩 『トラウマ恋愛映画入門』

2013年に刊行された『トラウマ恋愛映画入門』(以下『トラウマ』)について、著者の町山智浩は、「恋愛映画について、いちから学ぶつもりで書いた」とインタビューで答えている(『 トラウマ恋愛映画入門』発売記念! 町山智浩インタビュー cakes …

大沢啓二 『球道無頼』

「喝!」で有名だった大沢親分こと大沢啓二が、1996年に出した自伝。敗戦直後の生活から日本ハムの監督を辞めた94年までのことを語っている。 元々『週刊プレイボーイ』に連載していたもので、文体もいつものべらんめい調。話が簡潔にまとまっていて非…

苦労人ボブ・モウルド

Youtubeでボブ・モウルドのライブ動画を検索すると、エレキギター一本、バックバンドなしで演奏しているモウルドの映像が結構出てくるのだが、まさに「ドサ回り」という感じだ。 www.youtube.com モウルドがギター一本で「ドサ回り」に明け暮れたのは、これ…

マーティン・エイミス 『モロニック・インフェルノ』

本書はイギリス人作家マーティン・エイミスによる、「アメリカ」をテーマにした批評的エッセイ集で、原著は1986年に出版された。雑誌や新聞で発表した物を寄せ集めて作られているが、本にするにあたり、当時は制約があって書けなかったことを復元したと「前…