2019-01-01から1年間の記事一覧

「教祖」から抜け出すことの難しさ

教祖化する文筆家というのがいる。横光利一とか、小林秀雄とか、吉本隆明、柄谷行人とかだ。彼らはみな晦渋な文章を書いたという共通点があるが、それだけではない。難解であるというだけでは、「教祖」になることはできない。教祖になるために必要なのは、…

ジェニファー・ライト 『史上最悪の破局を迎えた13の恋の物語』

国会図書館サーチで、日本語で書かれたノーマン・メイラーについての記事を見ていたら、この本がひっかかった。去年の9月に出版されているのだが、新刊情報に疎いせいで今まで見逃していたのだ。クリックし、掲載されている目次を見ると、自分の関心領域と被…

オールタイム・ベストが好きという悪癖

年末になると、様々なメディアで、「今年の収穫」といったような年間ベストを決める企画が行われる。自分はそういう場で意見を求められる人がめちゃくちゃ羨ましいと思っている。なぜならそれは世間から「目利き」としてのお墨付きをもらっているようなもの…

芥川賞をとれなくて発狂した人

ってブログに小説をあげ、誰にも読まれていないにも関わらず、わざわざ自費出版までした私のことではないです。私はまだ発狂していません。自意識肥大、発狂寸前、入院秒読み、人生9回裏2アウト、といったところです。世界に忘れられたアラサーとして今日…

第二芸術としてのアフォリズム

俺は文芸の様式の中でも、アフォリズムや逆説といったものが嫌いだ。具体例を挙げると、アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』、芥川龍之介『侏儒の言葉』、三島由紀夫『不道徳教育講座』、シオランなど。昔、桑原武夫が俳句について「小説や近代劇と同じやう…

群像  1960年8月号 戦後の小説ベスト5

『群像』1960年8月号では、戦後から15年経ったことを節目とし、文学者たちに戦後の小説ベスト5を選んでもらうという企画を行った。作家だけでなく、評論家や外国文学研究者もいる。また、佐藤春夫や梅崎春生、小島信夫のように、様々な理由をつけてベスト5選…

マッチングアプリの時代の愛 参考文献

文献 浅草フランス座の時間 作者: 井上ひさし,こまつ座 出版社/メーカー: 文春ネスコ 発売日: 2001/01/31 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 23回 この商品を含むブログ (6件) を見る 大江健三郎 作家自身を語る (新潮文庫) 作者: 大江健三郎,尾崎真理子…

マッチングアプリの時代の愛⑥

抑圧が炸裂したのは、四月の最終日だった。 四月の始めに一度桜を観に行ったのだが、そこでも進展はなかった。また、会話の端々で彼女がうわの空になっているのが気になった。これは今に始まったことではないが、喋っていると彼女がまったくの無反応になるこ…

マッチングアプリの時代の愛⑤

告白してから二度ほどデートに行った。初詣と遊園地(観覧車のみ)と映画。それらの場所で過ごしたのだが、特に恋愛が進展することもなく、告白以前の関係性を維持したままだった。初詣に行った時は、前日になって彼女が風邪をひいたというので、一週間予定…

マッチングアプリの時代の愛④

高校生の頃は、大学に入れば誰でも恋愛できるものだと思っていた。文学・映画・漫画、どれを見ても、大学というのはそういう場所になっている。期待するな、という方が無理だ。その頃は、ネットの掲示板とかを見る習慣もなかったから、陽の当たる場所にしか…

マッチングアプリの時代の愛③

Oさんとマッチングしてからちょうど一カ月経過した。夏が終わり、過ごしやすい季節となっていたが、その間、誰からもグッドは来ず、俺が送ったグッドも返ってこなかった。最優先にグッドを送ろうと思っていた人たちには、全て振られていた。それでも保有し…

マッチングアプリの時代の愛②

童貞は、大阪に旅行した際、梅田の女装・ニューハーフ風俗で捨てた。詳しいことは「童貞と男の娘」に書いたので繰り返さないが、今後のためにセックスに慣れておきたかったのと、初めての相手はやっぱり恋人がいい、という矛盾をアウフヘーベンさせた結果、…

マッチングアプリの時代の愛①

恋と天才──これこそ僕が心に直感し、かすかに垣間見た蒼穹だった。僕はこの輝く空の光に打たれ、狂おしいばかりの魅力をたたえた幻影をとらえたのだったが、その空も今は永久に閉ざされてしまった。僕のことなど構ってくれるひとはいないのだ。そうでなかっ…

翻訳の世界 1992年10月号 若島正「改訳したい10大翻訳」

昔、フィリップ・ロスやナボコフの翻訳で知られる大津栄一郎のウィキペディアのページを見てみたら、「ナボコフの『賜物』の翻訳については若島正から『翻訳の世界』誌の「改訳したい小説ベスト10」で多数の誤訳を指摘されたため、「若島正氏に反論する」を…

小説家で打線を組んでみた

「〇〇で打線を組んでみた」という、5ch(特になんj)でよく使われているネタがある。野球を知らない人には、細かく説明しても無駄だろうから、本質的なことだけをかいつまんで言うと、野球のルールとセオリーを異分野に適用し、その中でどれだけ突っ込まれ…

ラブホテルのスーパーヒロイン⑧

それから三日後の月曜日。朝、会社に行こうとマンションの外に出たら、喉がいがいがし始めた。軽傷だろうと高を括っていたら、仕事が終わる頃には身体がだるく感じるほどに悪化していた。それでも翌日は出社したが、水曜日になるとベッドから起き上がるのも…

ラブホテルのスーパーヒロイン⑦

当初の過度に集中していた状態からややだれてきた時、扉がゆっくりと開いた。そこには、バットウーマンの衣装を着た彼女がいた。変身前の彼女とはまったく別人だった。天使であり悪魔である女。俺が求めていたのはこれだ! 俺は咄嗟に光線銃を撃った。ちゅる…

ラブホテルのスーパーヒロイン⑥

結局、風呂についてはよくわからないまま当日を迎えた。家族には、「映画を見てくる」と告げ、家を出た。今日は、朝から性的熱狂で脳が沸騰していた。なぜなら、この日のために月曜日からオナ禁していたからだ(日曜日には最後の晩餐とばかりに、いつもより…

ラブホテルのスーパーヒロイン⑤

シナリオを書き上げた後、ホームページでヒカリの予定を確認したら、二十五日出勤となっていたので、ひとまず安心した。以前予約した風俗店は、サイトに予約用のフォームがあったのだが、「ヒロインの檻」にはそれがなく、取り敢えず「お問い合わせ」のとこ…

ラブホテルのスーパーヒロイン④

2 実践編 私には夢がある。特撮ヒロインのコスプレをした女とセックスしたいという夢が。しかし、それを頼むための彼女はいないし、コスプレをメインにしたいわゆる「イメクラ」と呼ばれる風俗も、女子高生とか女医とかOLとかありきたりなものばかりだっ…

ラブホテルのスーパーヒロイン③

レッド・ルーフの作品を初めて購入したのは、多分高校二年ぐらいだっただろうか。それまでは、サイトのサンプルとかYouTubeやエロサイトに違法アップロードされた数分程度の断片しか観られない、食べ飽きたオカズを強引に消化するような不満足な日々を過ごし…

ラブホテルのスーパーヒロイン②

家にパソコン(ウィンドウズ95)とインターネットが導入されたのは、俺が五年生の時で、祖母が仕事でeメールを使うためだった。当時のダイヤルアップ接続は、定額制ではなく、速度もカタツムリのように低速で(おまけに、不穏な電子音まで鳴り響く)、家族…

ラブホテルのスーパーヒロイン①

──ところがねえ! どうしてもあの人に言う度胸が出ない、おかしな願いがあるんだと言っても、あんた信じてくれるかしら? ──あたし、あの人が、医療器具入れをもって、上っぱりを着て、ちょっとぐらいその上に血がついたままで、会いに来てくれればいいなあ…

マット・コリショー 爛熟した美の世界

日本では90年代にサブカルチャーの領域で、死体、犯罪、ドラッグ、過激な性表現といったものを、倫理や罪悪感から切り離し、時には肯定的にも扱う、いわゆる「悪趣味」文化というものがあった。現在、その功罪についてよく語られるようになったが、同じ時期…

藤森安和 『15才の異常者』

大江健三郎の「政治少年死す(「セヴンティーン」第二部)」は、1961年『文學界』2月号に掲載されたが、右翼の抗議にあい、出版社側が謝罪したため、2018年7月に『大江健三郎全小説3』に収録されるまで、長らく単行本未収録の封印作品となっていた。 実は、…

中上健次が選ぶ150冊

中上健次の没後出版された『現代小説の方法』という本は、彼の講演をまとめたものだが、最後におまけのような形で、「中上健次氏の本棚──物語/反物語をめぐる150冊」という章があって、中上が選んだ150冊の本のリストが載っている。元々は、1984年に、「東…

Apple Musicのひどい不具合

Apple Musicの会員になってから半年ぐらい経つが、不満なことが一杯ある。アレがあるのにコレがないみたいな、曲数についての不満も当然あったりするが、一番イライラするのは、技術的な問題だ。ちなみに、使っているiTunesのバージョンは、12.9.3.3である。…

サイモン・ブラウンド編 『幻に終わった傑作映画たち』

キューブリックの『ナポレオン』、オーソン・ウェルズの『ドン・キホーテ』、 アレハンドロ・ホドロフスキーの『デューン/砂の惑星』、デヴィッド・リンチの『ロニー・ロケット』……。完成することなく幻に終わった映画は、「幻」であるがゆえに、魅力的であ…

J・D・サリンジャー 『ハプワース16、1924年』

サリンジャーが雑誌などに発表した短編小説の中には、本人が後に単行本化するのを拒否したため、封印状態になったものがいくつかある。例えば、『ライ麦畑でつかまえて』の原型となった、「マディソン・アヴェニューのはずれでのささいな抵抗」や「ぼくはち…