ラブホテルのスーパーヒロイン⑧

 それから三日後の月曜日。朝、会社に行こうとマンションの外に出たら、喉がいがいがし始めた。軽傷だろうと高を括っていたら、仕事が終わる頃には身体がだるく感じるほどに悪化していた。それでも翌日は出社したが、水曜日になるとベッドから起き上がるのも一苦労なほどになっていた。熱を測ると、三十八度後半だったので、会社を休み、病院に行った。喉がものすごく痛んだことから、あの時のクンニが原因なんじゃないかと思った。これが芥川龍之介の『南京の基督』なら、俺が彼女の病気を引き受けたことになる。
 病院に着くと、インフルエンザが猛威を振るっていた時期だから、症状を告げた瞬間、すぐにカーテンで仕切られた小部屋に隔離された。その部屋には既に先客がいて、むしろこいつからうつされるんじゃないかと不安になった。
 涙を流しながら、鼻に長い綿棒を突っ込むあの検査を乗り切ると、結果は陰性だった。それで、薬を貰って帰ってきたが、性病の可能性もあるんじゃないかという疑いは晴れなかった。
 幸い、喉の痛みは処方してもらったうがい薬をしばらく続けていたら完治した。熱は次の日にひき、金曜日に出社した。それ以来、特に異常ないまま生活を続けているので、性病は杞憂だったらしい。
 風俗に行くたびに、三十八度越えの高熱が出るのは、なぜなんだろうか? 前回はそれでパニックに陥った。罪悪感のようなものが、病気となって体に現れるのだろうか。
 とにかく、あのセックスがしばらくトラウマとなり、一週間以上性欲が湧かなかった。これはオナニー・ジャンキーの自分にとっては異常事態で、このままだと性欲が枯渇したままになるんじゃないかと怖くなり、十日目に、全然やりたくもないオナニーを無理やりした。それで、『時計じかけのオレンジ』のアレックスよろしく「治ったぜ」と宣言したかったが、また不能状態が続いた。ようやく自発的にオナニーできたのは、風俗に行ってから二週間以上経ってからだった。
 トラウマがやっと払拭できたので、ヒカリのツイッターを覗いてみた。プレイがあった日には必ず投稿していたからだ。そして、いつ撮ったのか、ベッドの上にゴーグルとムチを並べた画像があげられていた。

 

(了)

 

 

ボードレール全詩集〈2〉小散文詩 パリの憂鬱・人工天国他 (ちくま文庫)

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ボードレール伝

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年月のあしおと (1981年) (講談社文庫)

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田舎教師 (岩波文庫)

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