作家の写真を読む
俺はミーハーな文学好きなので、小説だけでなく、それを書いた作家の風貌にも興味がある。しかし、出回っている写真の多くは、晩年に撮られたものだったり、パブリック・イメージを意識したものだったりで、飽き足りないものがある。例えば、岩波書店から出ている、濱谷浩の『学芸諸家』なんかは、「上品」すぎて退屈だ。
そこで、もっと自然体な感じのもの、もしくは出回ることの少ない若い頃の写真が載った写真集を、中の写真を引用しながら、ここで紹介してみようと思う。
樋口進『輝ける文士たち』
樋口は1953年に文芸春秋新社に入社、写真部を設立しすると、1982年に退社するまで、会社員の立場で作家たちを撮り続けてきた。また、裏方として、文士劇や出版会のパーティ、冠婚葬祭を手伝ったりもしている、縁の下の力持ち的存在でもあった。
掲載されている写真は、雑誌の企画や、忘年会、講演旅行、取材、草野球、将棋大会と、様々なシチュエーションのものが集まっており、バラエティーに富んでいる。気取っていない、オフの表情が見られるのが魅力的。
三島由紀夫と猫
「別冊一億人の昭和史」というシリーズの一つで、「二葉亭四迷から五木寛之まで」というサブタイトルがついている。資料としてかなり充実しており、写真につけられたキャプションも優れている。作家の若い頃の写真も豊富に掲載されており、どんな風に成長していったのか確認できるのは嬉しい。巻頭には、川端康成の小説の全表紙、巻末には「芥川賞・直木賞 受賞作家全名鑑」が載っている。
森鴎外(留学生として渡欧した頃・右端)
谷崎潤一郎(昭和2年頃)
芥川龍之介(府立第3中学校在籍時)
江戸川乱歩(明治45年)
林忠彦『文士の時代』
「作家と写真」と言えば、まずこの人だろう。ゴミに囲まれながら執筆する坂口安吾、バー・ルパンの椅子でポーズをとる太宰治、ロダンの作品を見つめる川端康成といった、作家のイメージを決定づけるような、印象的な写真を数々撮影してきた。まさに、文学史を写真で表現したと言える。古典として読むべき一冊。
内田百閒(名誉駅長を務めた時)
東販「新刊ニュース」編『写真集 作家の肖像』
東販が発行している月刊誌「新刊ニュース」に登場した作家92人とその自筆原稿を写した写真集(撮影は佐川二亮)。上で紹介した物に比べると幾分落ちるが、大江健三郎以降に現れた作家たちの、82年~87年頃の姿を見られるのは貴重か。
佐伯剛正『1972年 作家の肖像』
日本において詩人というのは、谷川俊太郎を除きほとんどがマイナーな存在のため、ネットでも写真があまり出回らない。特に昔の物は。
『日本で最も美しい村』などの著作で知られる佐伯剛正のこの写真集は、72年に焦点を絞り、当時の様々な作家・評論家・詩人の写真が載っていて、特に「作家」を中心とした写真集ではこぼれがちな、評論家や詩人にページを割いているのが特筆すべき点か。例えば、秋山駿、磯田光一、岡庭昇、天沢退二郎、吉増剛造といったあたりが掲載されている。
チュリ・クプフェルバーグ シルビア・トップ『小さな巨人の肖像』
なぜか本には著者の情報が載っていないのだが、チュリ・クプフェルバーグというのは、詩人でファッグスのメンバーだったトゥリ・カッファーバーグで、シルビア・トップはその妻。
この本は、作家だけではなく、あらゆる分野の偉人・有名人の幼少期の写真を集めたもので、「これが後にああなるのか」と考えながら読むと面白い。続編として、『 小さな巨人の肖像 続』も出版されている。
アントン・チェーホフ(14歳)
T・S・エリオット(3歳)
シグムンド・フロイト(父親と・8歳)
フランツ・カフカ(5歳)
ヘンリー・ミラー(3歳半)
フリードリヒ・ニーチェ(16歳)
マルセル・プルースト(12歳)
マーク=トウェイン(15歳)
写真集以外で、作家のレアな写真が見たければ、伝記やノンフィクションから探すのが一番手っ取り早い。例えば、八橋一郎の『評伝 筒井康隆』には筒井家がテレビに出演した時や結婚式の時の写真が載っている。水声社から出ているトロワイヤの手による文学者の伝記も写真が豊富。ハンフリー・カーペンターの『失われた世代、パリの日々』は、ヘミングウェイやエズラ・パウンドなどの、当時の写真が色々掲載されていて、雰囲気がこちらに伝わってくる出来となっていた。
失われた世代、パリの日々―一九二〇年代の芸術家たち (20世紀メモリアル)
- 作者: ハンフリー・カーペンター,森乾
- 出版社/メーカー: 平凡社
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