2013-01-01から1年間の記事一覧

クリスマスの詩

クリスマスになるとコウルリッジの「宿なし」という詩を思い出す。 「おお、クリスマス、楽しい日!まさに天国のお味見だ、楽しい家庭をもち、愛には愛を返してもらえる人には」 おお、クリスマス、憂鬱な日、記憶の投げ矢の針先だ、心に寂寥を抱えて人生を…

Babyshambles 『Down In Albion』

高校時代のアイドルはピート・ドハーティだった。僕は文学にもかぶれていたので、歌詞の中で『宝島』に言及したり、ユイスマンスを愛読本に挙げたりしていた彼に、ミュージシャンとしてだけでなく、そのパーソナリティにも惚れこんでしまったのだ。 僕がファ…

リテレール 1993年冬号 特集 短編小説ベスト3

自称スーパー・エディター安原顯が編集していた雑誌『リテレール』1993年冬号の企画「短編小説ベスト3」。著名な作家、評論家、翻訳家に、文字通り「短編小説」のベスト3を選んでもらっている。適当に抜粋していこう。 西村孝次 エドガー・ポウ「黒猫…

考える人 2005年春号 クラシック音楽と本さえあれば

『考える人』2005年春号では、内田光子ロングインタビュー、武満徹の本棚、わたしが音楽を聴く場所、作家に聞く「ベスト・クラシックCD」、音楽家に聞く「好きな本3冊」といった企画を行っている。ここでは、「ベスト・クラシックCD」を一部抜粋し…

Black Flag  『Live'84』

1984年はブラック・フラッグが最も活発に動いた年だった。彼らは1982年末から、SSTは業務提携していたレコード会社ユニコーンと裁判になっていて、その問題が解決に向かう84年春まで、新作を発売することができなかった。裁判の影響でバンドは…

ローリングストーン日本版編集部 『オルタナ魂―90年代USカルチャーの縮図 』

タイトル通り90年代に活躍したオルタナ系バンドの取材記事を集めたムック本。元々はローリングストーン誌に掲載されたもの。取り扱われているバンドは、ニルヴァーナ、ジェーンズ・アディクション、フィッシュボーン、ソウル・アサイラム、スマッシング・…

新春恒例94年シングルめった斬り対談

前に「新春恒例93年シングルめった斬り毒舌対談」という『ロッキング・オン』の記事を紹介したが、「新春恒例94年シングルめった斬り対談」(『ロッキング・オン』1995年3月号に収録)はその94年版で、『NME』1994年12月17日号に掲載された"Juke Box Fur…

The Jesus and Mary Chain 『Psychocandy』

「無気力」。このアルバムを一言で評するなら、そういうことになる。 ジーザス・アンド・メリー・チェインは、リード兄弟が中心となって結成され、二人の仲違いと共に崩壊した。兄弟バンドということでは、オアシスが有名だが、ジザメリにはノエルのようなや…

矢崎良一編 『元・巨人』

スポーツライターの矢崎良一が、トレード・解雇・人的補償などによって巨人から放出された有名選手についてまとめた本。一部の選手は「独白」という形式で、放出時の心境について語っている。巻頭には巨人から放出された選手のリスト(2009年11月27…

リリー・フランキー 『日本のみなさんさようなら』

本の中には、最初から最後まで一気に読む物もあれば、つまみ食いするようにぽつぽつと気になった部分を読んでいく物もある。俺にとって『日本のみなさんさようなら』は後者に属する本だ。 『日本のみなさんさようなら』はリリー・フランキーが約5年間にわた…

関景介編 『恋愛映画1000』

2000年にアスペクトから出版された、「恋愛映画」に的を絞ったガイド本。50人の「カルチャー系雑誌で活躍する50人の著名ライター」が、1人20本ずつ「恋愛映画」を紹介しているので、「1000」というタイトルになっている。日本美女選別家協会…

ナイジェル・ウィルソンとシャーマン・オバンドー

僕が日本ハムファイターズのファンになった2000年頃、野手の助っ人として二人の外国人選手がチームに在籍していた。ナイジェル・ウィルソンとシャーマン・オバンドーだ。オバンドーの方は、99年~02年と04年~05年まで日本ハムに在籍した。ホー…

考える人 2008年春号 海外の長編小説ベスト100

『考える人』2008年春号では、「海外の長編小説ベスト100」という特集を組み、「さまざまなジャンルの書き手129人」にアンケートをとっている。その結果自体はここにあるので、このサイトでは気になった個人の投票を挙げていきたい。 青木淳悟 ①百…

fIERHOSE 『lowFLOWs: The Columbia Anthology ('91–'93)』

fIREHOSEとは、Minutemenのギタリスト兼ヴォーカリスト、D・ブーンが交通事故で死んだ後に、残されたメンバーが、新たなギタリスト兼ヴォーカリストを加えて結成した3ピースバンドだ。 Minutemenの曲は1分半程度のものが多く(時には30秒ぐらいで終わる…

『ロッキング・オン』の架空インタビュー

72年に創刊された『ロッキング・オン』は、当初、アーティストからのインタビューがとれなかったために、苦肉の策として「架空インタビュー」を掲載するという反則技を展開していた。文字通り勝手に相手の発言を作り上げるわけだが、僕自身実物を見たこと…

新春恒例93年シングルめった斬り毒舌対談

家にあった『ロッキング・オン』のバックナンバー(1994年3月号)を読み返していたら、「新春恒例93年シングルめった斬り毒舌対談」というタイトルの記事を発見した。これは『NME』1993年12月25日号の"Juke Box Fury"という記事の翻訳で、若手ミュージシャ…

ハート・クレインと谷崎潤一郎のチャップリン

若くして自殺した詩人ハート・クレインに「チャップリン風に」という詩がある。 ぼくらはおずおずと順応を試みる── たとえば風が、ぶかぶかの おんぼろポケットに入れていってくれるような、 成り行きまかせの慰めなんかに満足して。 (以下略) 「チャップ…

マーティン・エイミス 『サクセス』

マーティン・エイミスの長編第三作にあたる『サクセス』は、やや特殊な構成となっていて、主人公のテリーとグレゴリーの二人が、一月から十二月に起こった出来事を交互に語っていくという形式を採用している。テリーは、六歳で母と死に別れたうえ、幼い妹が…

ビリー・ホリデイについての詩

7月17日はビリー・ホリデイの命日だが、ニューヨーク派の詩人フランク・オハラに、"The Day Lady Died"(「レイディ・デイが死んだ日」)という詩がある。レイディ・デイとはビリー・ホリデイの愛称で、"The Day Lady Died"というタイトルもそれにかけて…

「Piazza, New York Catcher」の歌詞について

Belle and Sebastianの『Dear Catastrophe Waitress』(2003年)に収録された「Piazza, New York Catcher」にはこんな歌詞がある。 Piazza, New York catcher, are you straight or are you gay? これは、当時ニューヨーク・メッツのキャッチャーだった…

「今夜はブギー・バック」のカバーについて語る小山田圭吾

スチャダラパーの『サイクル・ヒッツ~リミックス・ベスト・コレクション』には、小山田圭吾がRemixした「今夜はブギー・バック」が収録されている。Remixと言っても、実態はほとんどカバーで、しかも小沢のパートをパロディのように誇張して歌ったものだから…

青山南 『小説はゴシップが楽しい』

だいたい80年代後半から90年代前半にかけてのアメリカ文壇について書かかれたエッセイ集で、いつもの青山の通り気取らない文体で綴られている。 俺が面白い思ったのは、「マクミラン・ショック」「グレートスノッブの心意気」「ヘルマン神話が解体される…

トム・ウルフ 『そしてみんな軽くなった』

『現代美術コテンパン』、『虚栄の篝火』などで知られるトム・ウルフが、1970年代という時代について独自の視点から抉ったエッセイ集。冒頭の「夜空のキンタマ」(原題は"Stiffened Giblets")と題されたエッセイ以外は、数ページ程度の短い文章で構成さ…

豊田泰光 『サムライたちのプロ野球』

本書は、61年に巨人の監督に就任した川上哲治を批判することから始まる。川上は就任一年目に、ドジャースの管理野球を取り入れ、チームを優勝に導いた。しかし、それがプロ野球から「個」の魅力を消してしまったと豊田は主張する。そして、今では現場を知…

ソール・ベロー 『この日をつかめ』

ソール・ベローの作品で何か一つ薦めるとしたら、俺は迷わず本書を選ぶだろう。ボクは邦訳されているベローの作品は全て読んだが、彼の長編小説は基本的に冗長でペダンティックだ。筋に直接関係の無い形而上学的センテンスが多く、だらだらとしていて話が頭…

映画秘宝のオールタイムベスト特集号

映画秘宝はこれまでオールタイムベストの企画を二度ほど行っている。1998年と2008年だ。2008年版に収録されている町山・柳下対談の中で、町山は「(映画が:筆者注)その人にとってどれだけ影響したかが読むほうにとっては面白い」と言い、「人…

Nirvana 『In Utero』

ガンズ・アンド・ローゼズは『ユーズ・ユア・イリュージョン I& II 』を作るのに、4年以上かかった。 ストーン・ローゼズは『セカンド・カミング』を作るのに、5年半かかった。 両者に共通するのは、プレッシャーと誇大妄想。出世作となった前作を超える…

トム・ウルフ 『現代美術コテンパン』

これは現代美術について解説した本ではない。現代美術を取り巻く「環境」について解説した本である。「コテンパン」という邦題(原題はThe Painted Word)が示すように、ウルフの筆致はいつも通り皮肉に満ちていて、現代美術に関わる様々な人間をおちょくっ…

三浦真一郎 『みんな聞き出しちゃった プロ野球 本当のことだけ喋ろうぜ!!』

本書は、元セ・リーグ審判員で、引退後は主に文筆家として活動し、「球界の梨元」とも呼ばれた三浦真一郎が、元野球選手らを相手にした対談集で、1989年に出版された。元々は「週刊宝石」「月刊宝石」誌上に掲載されたもので、本にするにあたり加筆して…

80年代アメリカのインディーズ・シーンについて──SSTとブラック・フラッグを中心に──

80年代初頭、ロサンゼルスを中心に、一つのシーンが生まれた。それがアメリカン・ハードコアまたは、ハードコア・パンク等と称されるシーンである。インディーレーベルSSTとそこに所属するブラック・フラッグというバンドを筆頭に、ロサンゼルスから生まれた…