2017-01-01から1年間の記事一覧

映画『ジュリア』とリリアン・ヘルマンの嘘

ジェーン・フォンダが主演し、ヴァネッサ・レッドグレイヴがアカデミー助演女優賞を受賞した映画『ジュリア』は、原作がリリアン・ヘルマンの「自伝」であるため、「実話」ということになっているが、これは正しくない。正確に言うならば、他人の身に起こっ…

「舞姫」を批判する男はモテるのか?

森鴎外の短編「舞姫」は、教科書に掲載され、鴎外の作品の中で最も人口に膾炙したものだろうが、エリートの男が留学先で女を身勝手に捨てるという不道徳な内容から、発表当初より批判があり、また鴎外本人の身に起きたことを小説化していたため、小説・作家…

ノーベル文学賞はポルノがお嫌い

小谷野敦『純文学とは何か』を読んだのだが、そこに「村上春樹はなぜノーベル文学賞をとれないのか」とマスコミからよく聞かれると書いてあって、「通俗小説だから」というのが小谷野の答えで、モームやグレアム・グリーンがとれなかったのも通俗小説と見做…

本当は怖い文学史

文学史関係の本を読んでいると、気がつくことが一つある。それは、文学史というのが、作品の良し悪しというよりも、いわゆる「ゴシップ」の集積で出来ているということだ。文学史につきものの「論争」に関しても、そこに行きつくまでに、複雑な人間関係を経…

能年玲奈は何になりたいんだろう

たまに、能年玲奈のニュースを目に入れると、「この人は何になりたんだろう」と思うことがある。彼女が事務所と揉めて、干されたと話題になった時、ファンは女優業の継続を願っていた。その後、アニメ映画『この世界の片隅に』で声優を務め、口コミで映画が…

DVD化してほしい映画たち

少し前に、テレビで放映予定の未DVD化作品をツイートするツイッター・アカウントを作った。未DVD/廃盤/レア映画を観る方法 (@rare_movie) | Twitter 衛星放送に加入していれば、結構未DVD化作品を観ることができる。特に、東映チャンネルとかザ・シ…

クレイグ・ブロンバーグ 『セックス・ピストルズを操った男 マルコム・マクラーレンのねじけた人生』

マルコム・マクラーレンといえば、セックス・ピストルズを作った男であり、パンクを金になるメイン・カルチャーにまで押し上げた男だ。しかし、これほど毀誉褒貶が激しい人間もそういない。彼と仕事をした人間は、例外なく彼を嫌う(ジョン・ライドンとは裁…

批評と流行

マニア=オタク=批評家がにわかファンを駆逐し、流行していたものを衰退させる、という意見があるが実際は違うと思う。本当に人気のある物に対しては、批評家は完全に無力である。 例えば、ローリング・ストーンズやポール・マッカトニーには、ものすごい知…

ダメ人間が集まるサークルにも入れないダメ人間

ザ・ノンフィクション「会社と家族にサヨナラ・・・ニートの先の幸せ」を見た。 僕のツイッターのタイムラインでは、「あそこに出ている人たちは世間が想像するようなニートではなく、一般的な社会性はないが、何らかの異能を持った人たちの集まりだ」という…

ジャンキーの大部分は、隠れロマンティストだ、とアーヴィン・ウェルシュは書いた

アーヴィン・ウェルシュの小説『トレインスポッティング』には、マッティという名のエイズに感染したジャンキーが出てきて、彼は小説の終盤、トキソプラズマ症が原因の脳卒中で死ぬ。二十五歳という若さだ。マッティは下手なギタリストで、恋人のために恋の…

キネマ旬報特別編集 『オールタイム・ベスト 映画遺産200 外国映画篇』

本書は、『キネマ旬報』創刊90周年ということで企画され、2009年に刊行された。巻末にはキネマ旬報と関わりの深い会社の社長の名刺がずらずらと並べられている。 オールタイムベスト企画では、キネ旬以外だと映画秘宝のものが有名だが、人選はやはりキ…

日本文学は海外からどう見られているか!?

日本人は、海外(西洋人)からどう見られているか、ということをよく気にしている。テレビではかつての『ここがヘンだよ日本人』のような過激な物から、『YOUは何しに日本へ?』のような温和な物まで、外国人の視点を意識した番組が作られ、出版界隈では、『…

DVD化を望む映画リスト

DVD化して欲しい映画リスト。文藝物中心。 アービング・ラッパー監督 『ガラスの動物園』 『黒い牡牛』 『女性よ永遠に』 『初恋』 アニエスカ・ホランド監督 『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』 アベル・ガンス監督 『鉄路の白薔薇』 アモ…

ウディ・アレンの変身願望とマゾヒズム

1 序論──僕をメンバーにするようなクラブには入りたくない 一九七七年に公開された映画『アニー・ホール』の中で、ウディ・アレン演じるコメディアン、アルヴィ・シンガーが発した「僕をメンバーにするようなクラブには入りたくない」という自虐的ジョーク…

ブルース・ポリング 『だからスキャンダルは面白い』

タイトルを見て気になり、図書館になかったのでAmazonで買ったのだが、正直、期待外れの一冊だった。 文庫本で460ページほどの厚い本で、目次を見ると、「バイロン卿の危険な情事」、「H・G・ウェルズの悪い癖」、「グレアム・グリーンの筆禍騒ぎ」など、…

デュウェイン・ホージー 『ワルが目醒めるとき』

君はホージーを覚えているだろうか? あの、97年から98年にかけてヤクルトにいた「面白助っ人外国人」のホージーである。キャンプ中から野村監督に酷評され、まったく期待されていなかったのが、シーズンが始まると予想外の大活躍。結果的に松井を破りホ…

翻訳・新訳してほしい本

俺が読んでみたい本を選んだ。小説と作家の伝記が多い。 (間違えて、名前のあいうえお順にしてしまったが、気にしないで) フィクション・エッセイ・詩 アプトン・シンクレア The Moneychangers 作者: Upton Sinclair 出版社/メーカー: David De Angelis 発…

遠藤周作とグレアム・グリーンの「二重性」

グレアム・グリーンが遠藤周作の小説を称賛したことはよく知られている。二人にはカトリックという共通点があり、彼らの小説を語る際には、よくそのことが言及される。 カトリックであるということ以外に、二人を結び付けている共通点がもう一つある。それは…

野村克也と沙知代のコンプレックス

『球界のガン・野村家の人々』という本を読んだ。あの悪名高い鹿砦社から出版された物だ。中身は、南海時代のスパイ野球疑惑、ヤクルトにおける内紛、野村沙知代の横暴といったことが、書かれている。 ミッチー・サッチー騒動の時は、まだ小学生だったので、…

アル・パチーノ ローレンス・グローベル 『アル・パチーノ』

アル・パチーノは俳優として優れているというだけでなく、アメリカ文化においても重要な存在だ。『狼たちの午後』、『セルピコ』、『ゴッドファーザー』三部作、そして『スカーフェイス』といった作品を抜きにして、アメリカのポップ・カルチャーを語ること…

フロイト/精神分析にハマる人の特徴

橋本治が『蓮と刀』の中で、フロイトの「理論」というのは、実はフロイト自身の性格が色濃く反映されているのだ、というようなことを書いていて、そうした観点から『ドストエフスキーと父親殺し』などを分析しているのだが、フロイトや精神分析にハマる人も…

川本三郎 『スタンド・アローン』

たまたま昔の書籍に入っていた広告を見て気になり、読んでみたのだが、これが抜群に面白かった。「今世紀初頭(20世紀)から現在まで、映画、文学、スポーツ、音楽などの分野で独自の世界を築いた個性的な男たち23人のミニ・バイオグラフィー」というの…

ロン・ローゼンバウム 「ドナルド・トランプって結構いい人だ」

かつて、東京書籍が「アメリカ・コラムニスト全集」というシリーズを企画し、トム・ウルフやポーリン・ケイルの批評的エッセイ集を出版していた。 この前、図書館でそのシリーズの中の一冊、ロン・ローゼンバウムの『ビジネス・ランチをご一緒に』というのを…