ラブホテルのスーパーヒロイン③

 レッド・ルーフの作品を初めて購入したのは、多分高校二年ぐらいだっただろうか。それまでは、サイトのサンプルとかYouTubeやエロサイトに違法アップロードされた数分程度の断片しか観られない、食べ飽きたオカズを強引に消化するような不満足な日々を過ごしていたのだが、レッド・ルーフが出版事業にも実験的に手を伸ばしたことがあって、その時にDVD付きのムック本を五号くらいまで出したのだが、それが三千円程度とかなり安く、一万円で外れをつかんだならダメージも大きいが、三千円なら許容範囲と、秋葉原にあるレッド・ルーフの運営する販売店に赴いたのだった。
 それは、小雨が降りしきる鬱陶しい日だった。販売店は、駅から少し歩いたところの、薄汚れた雑居ビルの地下にあり、誰にも見られていないことを入念に確認してから、狭く急な階段を慎重に下りた。壁に設置された赤いライトと蔦模様の壁紙が、悪者のアジトのようなおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。下りると、入口の横に、撮影に使ったマスクやスーツといった小道具がガラスケースの中に展示されていた。ピンチシーンの撮影に使ったことを示すため、あえてボロボロのものが飾ってある。中にはいると店内は薄暗いうえかなり狭く、すれ違うだけでも苦労しそうな感じだったが、幸い客は誰もいなかった。万引き防止のためか、レジは入口のすぐ脇にあったが、互いの顔が見えないように、小さな受け渡し口以外はスモークガラスのようなもので覆われていた。段々と背徳感が襲ってきて、心臓が病的なほど鼓動し始めた。
 濃厚な赤色ライトに照らされながら、全身一本のペニスとなって、棚を物色していると、在庫整理なのか、数年前の作品が三本セットになって抱き合わせで販売されているのを見つけた。直売店オリジナルの商品らしい。これなら経済的だが、色々迷った挙句、当初の目的通りのブツを購入した。
 家に買ってからゆっくり鑑賞しようかと思っていたが、店に入った時からズボンが苦しくなるぐらいパンパンに勃起し続けていた俺は、どうしても我慢できなくなり、目を血走らせつつ、適当なネットカフェに猪のごとく突入した。そして、黒い袋から中身を取り出し、付属のDVDをパソコンのドライブに挿入した。既にパンツはやや濡れていた。動画再生ソフトが起動するまでの間、オナニーへの大いなる助走として、ムックの方を流し読みした。新作の紹介と女優のインタビューで構成されたそれは、脳味噌が性欲のクリームで覆われてしまった俺にはまるで物足りなかったが、DVDの方は、レズビアン要素のある、素晴らしいもので、三千円以上の価値があった。
 しかし、問題は多量の精液を放ったティッシュを捨てる場所がなかったこと。仕方がないので、(オナニー用の)ティッシュは備え付けられているのに、ゴミ箱がないという画竜点睛を欠くその部屋から出る前に、黄ばみ始めた使用済みティッシュを何重にも新しいティッシュで包んでから鞄に入れ、外に出た。それで、ゴミ箱を求めて歩いているうちに、唐突に梶井基次郎の「檸檬」を思い出し、この紙の爆弾をどこかに置いてこようかなんて考えたのだが、さすがに本屋に放置するほど反社会的な人間ではないので、野球ボール大のそれを、自宅近くの歩道橋の端側に捨て、朽ち果てていく様子を毎日観察しようと試みた。そして、しばらくそれはそのままになっていたが、溶けて地面と一体化する前に、いつのまにか誰かに片付けられ、きれいさっぱりなくなった。

 

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