作家の写真を読む④
作家の写真を読む③から半年近く経った。その後も、意識的に作家たちの面白い写真はないかと探し回り、それなりに溜まってきたので、ここらで一挙に放出しよう。これまでは書籍しか取り上げてこなかったが、今回は雑誌からも拾ってきた。
神蔵美子『たまゆら』(マガジンハウス)
末井昭、坪内祐三、そして自身の三角関係をテーマにした私写真『たまもの』で知られる神蔵美子の二作目にあたる写真集。女装した男たちを撮っているのだが人選が独特で、宮台真司や近田春夫、高山宏、鈴木邦彦、四方田犬彦、安部譲二といった女装と結びつかないような文化人が被写体になっている。坪内祐三と末井昭もいて、共演までしている。カバーは島田雅彦。
また、ただ女装するだけではなく、テーマも定めており、「コギャル」(宮台真司)、「家政婦」(赤塚不二夫)のような具体的なものから、「ためらい」(高山宏)、「もの想い」(島田雅彦)といった抽象的なものまで様々である。
元々は『週刊宝石』(光文社)の連載だが、書籍化するにあたってマガジンハウスに版元を変えている。巻末にはモデルのインタビューや文章が載っており、各々女装の感想を語っていて、饒舌にコンセプトを語る人もいれば、あっさりしている人もいる。例えば坪内祐三なんかは、「アメリカ文学者」としての興味からアメリカンダイナーのウェイトレスに扮してみたと積極的だし、逆に根本敬なんかは、ハマるよりもハメさせるほうが好きだからという理由で、自身の女装にも冷めた目線を送っている。
神蔵は女装専門誌『くい~ん』の表紙も手掛けており、それがこの企画のきっかけにもなったようだ。
「篠山紀信の美女シリーズ」『潮』1971年8月号(潮出版社)
かつて『婦人公論』に「私の傑作」という著名人が自由に写真を撮る企画があり、金井美恵子が出た時は、近所の風景を被写体に選んでいた。
『Shutter』1983年10月号(インデックス出版)
内容的に、写真週刊誌ブームに乗っかるべく創刊された雑誌のようだが、詳細は不明。わずか一年で休刊したようだ。他の号には事故死した向田邦子の遺体が掲載されていた。版元はインデックス出版となっているが、コンピューター・土木関連の書籍を扱っている現在のインデックス出版とは無関係と思われる。福永法源『私は百パーセント癌を治した : 「行」でガンが治った!生きざまを切開する「御法行」』という本も出したことがあるらしい。
「仮装せる文士」『趣味』(易風社)
『趣味』は明治時代に出ていた月刊の文芸誌。当時新進だった自然主義の作家がよく寄稿していた。グラビアにも力を入れていて、絵画や写真も掲載していたが、「仮装せる文士」はその中の一つ。
徳島高義『ささやかな証言──忘れえぬ作家たち』(紅書房)
『群像』の編集長を務めた人による自伝。村上春樹とも関係が深く、村上が外国に移住した際は、猫を預かったこともある。画像は徳島の著書から。
ピーター・キャット(千駄ヶ谷時代)
『朝日新聞』1960年5月9日朝刊
朝日新聞に掲載された谷崎潤一郎の足の裏。谷崎本人は勝手に載せられたと怒っていた。
「澁澤龍彦の世界」『別冊新評』1973年秋号(新評社)
「昭和文学アルバム サファイア・セット」『角川版昭和文学全集』の付録(角川書店)
1961年から刊行が始まった『角川版昭和文学全集』には、「昭和文学アルバム」という付録がついていたらしく、古本屋ではこれだけを単独で売っている。サファイア・セットは第20回配本分までを対象としており、それ以降はルビー・セットと呼ばれている(ポケモンみたいだ)。
写真だけでなく、その作家と関わりの深い人々によるエッセイも掲載されていて、これが月報の代わりだったのだろうか。
『私の文壇生活を語る』(新潮社、1936年)より井伏鱒二
作家の風貌や書斎を写した写真集はそれなりにあるが、この写真集が類書と異なっているのは、台所や応接間、寝室といった普段露出することのない場所まで撮影していることだ。そのため俺の如きミーハーな文学ファンを満足させる出来となっている。
元々は『すばる』の連載で、それを書籍化したもの。中上健次だけは、遺品の撮影となっている。赤川次郎は、家ではなく仕事場の撮影だが、ファサードを見ただけでも、区役所ぐらいの大きさがありそうでびびった。
石原慎太郎が所有する美術品
フォンタナ
中原浩大『REIA』