作家の写真を読む③
これまで、「作家の写真を読む」、「作家の写真を読む②」と二回、主に文学者を被写体に選んだ写真集を紹介してきたのだが、ついにこの試みも三回目となる(だからといって、特別なにかあるわけじゃないけど)。ただ、前二回と違い、今回は作家の日常を写したような、面白い写真があまり見つからず、それが残念だった。
田村茂『素顔の文士たち』
写真集の中でも「作家」をテーマにしたものは、恐らくかなりマイナーな分野だと思われるが、昨年河出書房新社から、『素顔の文士たち』というものが出版された。
著者の田村茂は、広告写真、婦人雑誌のモード写真などからキャリアを始め、1967年には『北ベトナムの証言──みな殺し作戦の実態』で日本写真批評家協会賞特別賞を受賞している。
1948年には、太宰治を被写体に27枚ほど写真を撮っていて、それが本書にも収録されている。文学好きなら、ニヒリスティックな感情に満ちた顔を左手で支えている太宰の写真を一度は見たことがあるだろう。安藤宏が巻末の解説で書いているとおり、田村の撮った物は、表情や振る舞いに演出が強く感じられ、あたかも太宰治が「太宰治」を演じているかのようである。これらの写真は八雲書店版『太宰治全集』(出版社が倒産したため中絶)のために撮られたもので、神話を作り上げようとする太宰の並々ならぬ努力がこちらに伝わってくる。
榊原和夫『榊原和夫の現代作家写真館』
榊原和夫は、本書に寄せられた川西政明の序文によると、元週刊読書人の編集者で、それからフリーのカメラマンに転身するという経歴を持つ人物らしい。1968年には『日本の作家たち』という写真集を出版している。
『現代作家写真館』は、「公募ガイド」の連載をまとめたもので、雑誌の性質ゆえか、撮影場所は仕事場で、作家志望者に向けたメッセージや、手書きの原稿用紙の写真まで掲載されている。
野上透『文士一瞬』
野上透は本名根岸秀迪といい、1958年、日芸の写真科から講談社の写真部に就職し、キャリアをスタートさせた。それから六年後に講談社を退職、フリーとなり、1977年に『女人古寺巡礼』で講談社出版文化賞を受賞。
作家の写真は、講談社時代、『群像』の編集長大久保房男からの依頼で撮るようにになり、講談社を退職後も、「われらの文学」、「現代の文学」といった講談社より出版された文学全集に収録する写真を手掛けた。本書は野上の死後出版されたものである。