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江藤秀一編 『晩年にみる英米作家の生き方』

 図書館検索で蔵書を調べていた時に、たまたま見つけた一冊。この本を読むまで「港の人」という出版社のことは全然知らなかったのだが、鎌倉にあって文学関係の本をぽつぽつと出しているらしい。

 本書はタイトルの通り、著名な英米作家の「晩年」に焦点をあてた本だが、簡単な伝記としても読める。取り上げられている作家はジェフリー・チョーサーからジョン・アップダイクまで幅広い。

 俺が特に面白く読んだのはウィリアム・ゴールディングサマセット・モームについて書かれたところだ。前者は未だまとまった伝記が日本にはないから(後者に関しては行方 昭夫『モームの謎』が2013年に出版されたが、俺はまだ読んでいない)、この本の安藤聡による記述は貴重だと思う。安藤はゴールディングの人生から、彼の作風に影響を及ぼしたと思われるエピソードをいくつかピックアップしていて、非常に参考になる。例えば、ゴールディングが、子供を寝かしつけるために読み聞かせていたというR・M・バランタイン『珊瑚島』の内容に疑問を持ったということや、第二次大戦中に化学兵器の開発に携わっていたということ、教師として子供たちを常に観察できる状況にあったということなどだ。ちなみに、教師としてのゴールディングの評判は最悪だったらしい。彼は酒癖も悪く(アルコール依存には長年悩まされ続ける)、それでグラマースクールの教師の職を解雇されたとか。歴史学者アンドリュー・シンクレアの家で泥酔して、ボブ・ディランの人形を「サタン」だと思い込み、破壊して庭に埋めたこともあるそうだ。

 彼は43歳の時、『蠅の王』でデビューをする。安藤は本書の中でゴールディングを「気難しい小心者」と評している。ゴールディングは、書けなくなる不安に絶えず取り憑かれていて、税金が支払えなくなった時のために『蠅の王』の原稿を地元に銀行の金庫に預け、いざとなったらそれを売りに出そうと考えていたらしい。また、彼は暗所恐怖症、甲殻類恐怖症、高所恐怖症、閉所恐怖症でもあったとか。ゴールディングの詳細な伝記が日本でも出版されてほしい。

 モームの生涯に関しては恥ずかしながらほとんど知らなかったので、彼がゲイだったことや、晩年、実の娘と裁判で争ったことなどを本書で知った時は驚いた。娘との裁判では、愛人だったアラン・サールが関わっていて、モームに見捨てられることを恐れた彼は、モームと娘のライザの仲を引き裂くことで、モームの愛情を独り占めしようとした。その結果、モームと娘の間で財産をめぐるいざこざが起こり、モームは娘を廃嫡しようと試みるまでに至る。モームの代表作Of Human Bondageは『人間の絆』という題で邦訳されているが、なんとも皮肉な邦題になってしまった。

 

晩年にみる英米作家の生き方 モーム、ミラー、アップダイクほか15人の歩んだ道

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