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ジェレミー・リード 『ワイルド・サイドの歩き方 ルー・リード伝』

 ニューヨークの暗部を歌い尽くした男、ルー・リード。彼の人生を総括した本が、詩人・小説家であるジェレミー・リードの手によって著わされた。「俺は誰よりもルー・リードらしく振る舞える」とうそぶき、自らを積極的に「偶像化」した彼の真の姿を、本書によって我々は知ることが出来る。

 第一章「僕は待ち人」において、ジェレミーはまずルーの音楽と人生を、始まりから終わりに至るまで、批評的にまとめている。伝記と言えば普通生い立ちから始まりちょっとずつ進行していくものだから、この書き方にはちょっととまどったが、第一章は導入というかダイジェストのようなもので、本編である「伝」は第二章「おまえの息子たちを殺せ」から始まる構成になっていたので安心した。

 ルーは1942年に、税理士をしている父親の息子として生まれた。母親は美人コンテストで優勝したことがあるほどの美形。両親共にユダヤ人で、思想は保守的だった。裕福な家庭で育てられたルーだが、同性愛の傾向があったため、両親から電気ショックによる矯正療法を受けさせられた。この時の体験は、「Kill Your Sons」という曲になっている。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのメンバー、スターリング・モリソンはルーの両親について次のように語っている。

 

 ルー・リードの両親は、ルーが音楽やって、ろくでもない奴らとふらふら遊びまわっているのが気に入らなかったんだ。俺はルーの両親が怖かったよ──何かというとルーをつかまえて精神病院に放り込むって脅すんだ。(レッグス・マクニール ジリアン・マッケイ『プリーズ・キル・ミー』島田陽子訳、p.6)

 

 青年ルー・リードは、同性愛者としてのアイデンティティーを両親から否定された。家庭は彼の居場所ではなかった。「アウトロー」としての自覚を持ったルーは、自らを保護するため、様々な「仮面」をつけるようになった。そして、常に主導権を握らなければ気が済まないような人間と化した。そうした性格は、ジョン・ケイルアンディ・ウォーホルとの確執を生む原因になった。

 ルーは両親からピアノを習わせられクラシックを練習したが、彼の人生に強く影響したのは、ラジオで聞いたR&Bやドゥーワップの方だった。ヴェルヴェッツの「ロックンロール」は彼のそうした音楽体験を反映したものとなっている。

 1960年に、ルーはシラキュース大学へ進学。そこで、詩人・小説家のデルモア・シュワルツと出会った。彼はソール・ベローの長編小説『フンボルトの贈り物』のモデルであり、「ニューヨーク知識人」と呼ばれる一派の一人でもある(彼の小説は『and Other Stories―とっておきのアメリカ小説12篇』で読める)。大学で教えながらも、シュワルツの生活は破綻していた。彼はアンフェタミンとアルコールの常用で身体を壊していて、結局1966年に52歳で死ぬ。詩人でジャンキーという生きざまは、ルーの人生のモデルとなった。

 また、59年にはウィリアム・バロウズの『裸のランチ』が出版され、ドラッグがカルチャーの一部となった。「I'm Waiting for the Man」というラインは、『裸のランチ』から取られているとジェレミーは推測している。もちろん「Heroin」もバロウズの影響下にある。

 大学から本格的に音楽活動を始めたルーは、64年にジョン・ケイルと出会う。ヴェルヴェッツの実験的なサウンドの多くはケイルが持ち込んだものだ。そこにルーの思想が加わり、極めて特異なバンドが出来上がった。彼らがロックに及ぼした功績は今さらいうこともないだろう。

 

 本書において特筆すべきなのは、ルーの内面に遠慮なく迫っている点だ。ルーはゲイだったが、女性とも付き合い、三度(ローリー・アンダーソンとは事実婚だが)結婚した。だが、その交際の多くは不幸な結末を迎えた。ジェレミーは「リードはゲイであることを認めつつも、それゆえの苦悩を回避するために、欲望を押し殺した行動に終始してきた」と書いている。ルーはあるインタビューで「女性に対して、本当は何も感じない」と告白したことさえある。

 そうした苦痛は、『Berlin』において最もよく表現されている。『Berlin』はロック版ファスビンダー映画ともいうべき陰鬱な作品で、男女のドメスティック・ヴァイオレンスについて描かれていた。その中の代表曲「Sad Song」では、「時間を無駄にするのはやめにしよう/ほかのやつなら彼女の両腕をへし折っただろうさ」と歌われている。当時の妻、ベティ・クロンシュタットとの不和が、作品に反映されているとジェレミーは指摘している。ルーはこの作品がかなり気に入っていたようで、後にライブ盤まで出した。

 ルーの荒れた生活が落ち着き始めたのは80年代に入ってからで、アルコールやドラッグの常用を控え、太極拳(後に『Hudson River Wind Meditations』という太極拳と瞑想のためのアルバムを出した)やバイク(『Legendary Hearts 』のジャケにはヘルメットが使われている)にはまるようになった。アメリカン・エキスプレスやホンダのCMに出たりと、「セル・アウト」していた時期でもある。作品も『The Blue Mask』『New York』以外ぱっとしなかった。

 90年代には、ローリ・アンダーソンとの交際、そしてケイルとのコラボを経てヴェルヴェッツの再結成という出来事があった。前者はそれなりに幸福な形で最後まで全うされたが、後者はすぐに崩壊した。2011年には、メタリカと組んだが、これはかなりの評判が悪かった。

 本書を読めば、これらの経緯を詳しく知ることができる。アンダーグラウンドとメインストリームの両方を体験した人間はそういない。ルーの人生と、そしてその音楽を「読む」ことの喜びを、ジェレミーの本から得てほしい。

 

ワイルド・サイドの歩き方 ルー・リード伝 (SPACE SHOWER BOOks)

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