クレメンス・デビッド・ハイマン 『リズ』

 女優の奥菜恵が3月13日に結婚を発表した。奥菜はこれで3度目の結婚になる。
 結婚と離婚を繰り返した女優といえば、エリザベス・テイラーだ。彼女は7人の男性と8回結婚し、8回離婚した強者である。そんな彼女の人生を知るにはC・デビッド・ハイマンが書いた伝記『リズ』が参考になる。
 エリザベスはハリウッドを代表する女優だが、生まれ(1932年)はイギリスだ。両親ともにアメリカ人だが、父親のフランシス・テイラーがロンドンにある画廊の経営をおじであるS・ハワード・ヤングから任されていたことから、第二次大戦が勃発する直前までイギリスで暮らしていたのだ。
 エリザベスは幼い頃から勝気で、華やかな世界に憧れていた。4歳の頃、彼女はダンス・スクールに通うようになるが、それは、王女がそこに通っていると聞きつけたからだった。実際には王室の人間がスクールに直接通っているということはなかったが、後にエリザベスは、自分は王室の人間と一緒のクラスにいたと話すことになる。芸能界という虚構の世界に生きる彼女は、自分がどうやったら注目され、どうやったらスターであり続けられるか、ということを常に計算して言葉を発した。
 7歳でアメリカに渡った彼女は、ハリウッドで子役としてデビューし、1948年に公開された『緑園の天使』で一躍スターになった。撮影所内に設置された学校で教育された彼女は、芸能以外の世界を知らないまま大人になった。白か黒しかない彼女の極端な思考は、社会との間に大きな軋轢を生んだ。派手なファッション、会社との契約、主演作の失敗、男女関係…… トラブルを起こす度、ニュースになり、それがまた彼女を有名にした。女優としては声が悪く、演技力を評価される機会は少なかったが、エリザベス・テイラーが「エリザベス・テイラー」として映画に出ているだけで、観客は映画館に集まった。演技がうまいだけの俳優ならたくさんいる。だが、「エリザベス・テイラー」は一人しかいないのだ。
 成功者となっても、エリザベスの孤独や不満は解消されなかった。退屈を嫌い、刺激を求め続けた。結婚もまた、刺激を得る手段の一つだったのだろう。彼女は映画のヒロインさながら、情熱的に恋愛し、結婚した。彼女が男に求めていたのは、ある時は「父性」であり、またある時は、何でも言う事を聞いてくれる「召使」だった。そして、熱が冷めれば躊躇することなく離婚した。映画のような人生であり、人生こそが映画になった。彼女がオスカーを獲得した『バージニアウルフなんかこわくない』は、当時の夫リチャード・バートンとの共演作であり、夫婦間のディスコミュニケーションがテーマの映画だった。
 脚本家のデイル・ワッサーマンは本書の中で次のように述べている。「俳優っていうのは、いつもアイデンティティをさがし求めている人種じゃないですかね。かれらはみんな、不思議なほど空っぽなんですよね」と。辛辣だが、本書を読むとそれが的確であるように思える。

 

リズ〈上〉

リズ〈上〉

 

 

リズ〈下〉

リズ〈下〉

 

 

 (おまけ)エリザベス・テイラーが自身の名前を冠したブランドから出した香水「パッション」。映画オタクはつけるべし。

 

エリザベス テイラー パッション EDT スプレー 75ml [並行輸入品]

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