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青山南 『ホテル・カリフォルニア以後』

 「ホテル・カリフォルニア」という象徴的な言葉がタイトルがつけられた本書は、70年代アメリカ文学の解説書だ。一つのムーブメントを生み出したベトナム戦争が終わりを迎え、小説もまた新しい方向性を模索し始めた70年代。青山は、リアルタイムでアメリカ文学の動きをレポートし、アメリカという国が抱える闇を浮かび上がらせる。

 本書で青山が紹介し、日本でも馴染みがある作家といえば、ティム・オブライエンレイモンド・カーヴァージョン・アーヴィングだろう(つまり、村上春樹が、訳した作家たちということなのだが)。勿論、三者とも、アメリカという国を語る上で絶対に欠かせない存在だ。ティム・オブライエンは、『カチアートを追跡して』を出したばかり。ベトナム戦争をノンフィクション(本書では、マイケル・ハーの『ディスパッチズ』がよく言及される)ではなく、フィクションとして描き、非凡な想像力を発揮した。レイモンド・カーヴァーは『頼むから静かにしてくれ』で、日常に潜むうすら寒い些細な暴力性を、簡潔な文体で、書き表した。青山は、単なる風俗解説に堕することなく、それらの作品の普遍的な面白味を、読者にわかりやすく提示する。だから、扱われた作品が同時代という記号を失った今でも、本書は有効な手引きなのだ。

 僕が、個人的に好んでいるのは、フィリップ・ロスについて扱われた章だ。当時のロスは、同時代作家の中でも、たぐいまれなる悪意の持ち主であり、その小説は悪意そのものだった。『われらのギャング』、『男としての我が人生』、『素晴らしいアメリカ野球』。どれを読んでも、あまりにの毒の強さに、辟易させられるぐらいである。青山は、本書において、その毒を紹介・解説している。さながら、河豚の調理人といったところだろうか。

 『ホテル・カリフォルニア以後』には、大きなネタから小さなネタまでたっぷり詰まっている。選書のセンスと的確な解説は、決して古びないのだ。この本をガイドに、フィリップ・ロスティム・オブライエンの世界に、飛び込むのも悪くないだろう。