吉原真理の『ドット・コム・ラヴァーズ』を読んだ。だいぶ前からいつか読もうと思ってタイミングを逃し続けてきたのだが、数か月前から自分がペアーズをやるようになったので、ちょうど良い機会だと思い、手を伸ばした。
『ドット・コム・ラヴァーズ』は、アメリカ文化やジェンダーについての研究者である吉原真理が、2003年にアメリカのオンライン・デーティング・サイト、マッチドットコムを利用した時の体験記だ。吉原によれば、アメリカでは2000年を過ぎた頃から、ネットを通して恋人を探す人々が増え始め、この本が出た2008年にはもう「年齢・職業・人種・地域を越えて、アメリカ主流文化の普通の一部となって」いたという。
ネットを通じた出会いが胡散臭く見られていたのは、アメリカも日本も変わらないが、市民権を得たのはアメリカの方が圧倒的に早かった。日本だと、オンライン・デーティングが、交際相手を探す際の手段として認められ始めたのは、スマートフォンが普及してからだろう。それまでは、ネットのデート・サイトというのは、「出会い系」と総称されてて、かなり怪しまれていた。だから、俺の登録しているペアーズなんかも、「マッチング・アプリ」と称し、アングラ臭をどうにか消そうとしているのだ。
しかし、吉原の体験から15年近く経っているわけだが、全然今と変わらないなあ、というのが本を読んだ時の俺の感想。国も違うのに、「ネット」「出会い」「恋愛」が揃うと、人間の考えや行動がだいたい同じものになるようだ。その行動・思考について、自分の経験も踏まえつつ、思いついた順につらつらと書いてみたい。
そもそもプロフィールを書くのは難しい
俺のような売りが全然ないオタク顔・低年収マンが、魅力的なプロフィールを作るのは、ラクダが針の穴を通るよりも難しい。ちなみに、ペアーズの年収欄は、選択できる項目が、200~400という(多分、わざと)アバウトな作りになっているので、多少の誤魔化しがきくようにはなっている(こんなこと書いたら、俺がどこの層に属しているかばれるけど)。一度、男のプロフィールを見たことがあるが、600~800がずらりと並んでいて、思わず目をつぶった。
また、性格・タイプとか社交性、酒を飲む頻度などを選択肢から色々選べるようになっているのだが、性格を「インドア」、社交性を「一人が好き」、酒を「飲まない」にしたら、完全な引きこもり人間が出来上がってしまい、これじゃいかんと思って、慌てて、社交性を「少人数が好き」に直したが(一瞬、飲酒についても「時々飲む」にしてみたが、止めた)、性格に関しては自分で「思いやりがある」とか「謙虚」とか「誠実」とか言うのが恥ずかしくて、結局「穏やか」しか追加していない。だけど、確実に言えることは、自分から「謙虚」なんて選んでる奴は、謙虚じゃないということだ。
性格では他に、「奥手」とか「マイペース」とかあるのだけど、「奥手」な男なんて犬も食わないので当てはまっていても選択しなかった。「マイペース」は、「わがまま」の言い換えのような感じがしてこれも選ばず。もしかしたら、俺が気にしすぎなのかもしれないが、減点対象になるようなことはなるべく避けたいのだ。ただ、男の場合は減点でも、女の場合はそうでもない、というケースもあるだろう。
プロフィールをきちんと読まない男が多い
吉原はサイトに登録した際、相手に求める条件の一つとして「トニ・モリソンを知っていること」と書いたのだが、全然それを読まないでメッセージを送ってくる男がめちゃくちゃ一杯いたらしい。
これはペアーズでも同じで、とにかく手当たり次第に「いいね」を押す男が存在する。俺の友達も、そんな「数撃ちゃ当たる」戦法でやっていたが、相性とかよりも、とにかく「出会うこと」の方が先行していて、それで実際出会えたとしても共通項が少ないならば、よほど女慣れしている男じゃないと上手くいかないんじゃないかとも思う。ただ、マッチング・アプリというのは基本的に男が積極的に動かなければどうにもならないし、複数の人間とやり取りすることが(男女問わず)結構当たり前らしいので、「数撃ちゃ当たる」戦法は理にかなっているのかもしれない。一人に絞ると、駄目だった時のダメージは必然的にでかくなる。
俺は逆に、女のプロフィールや入っているコミュニティを熟読玩味しすぎて、他の男たちのように気軽に「いいね」が押せない。「あー、このコミュに入ってるのかぁ。う~ん」みたいな。あと、複数の女に同時に「いいね」することもできない。万が一両方とマッチングしてしまった場合、二人同時に相手にするのは、体力とか罪悪感などの面から厳しいからだ。だから、俺は山のように「イイネ」が余っていて、やろうと思えば現時点で200人以上の女に「イイネ」が押せる。にっちもさっちもいかなくなったら、全ての「イイネ」をばらまいて爆裂四散しようかと考えている。
しかし、女のプロフィールを眺めるのは単純に面白い。「〇〇が好きな女って、こんな感じなんだ」というのがよくわかるから。ペアーズは異性の情報しか見られないから推測なのだけれど、例えばマイナーな芸術系のコミュニティの場合、男はヘビーなオタクで、女はライトなファンといった感じに分断されていると思う。女は風変わりなマイナー・コミュニティに入っていても、プロフィールを見る限り社会性が高そうだが、男は社会不適合者が多いんじゃないか(自分含め)。だから、俺は中々マッチングしないのか?
建前といいね数
やっぱり、人間というのは「プライド」があるので、自発的にマッチング・アプリをインストールしたとしても、そのことは隠しておきたいものである。そのため、プロフィール欄には、「職場では出会いがない」とか「友達にすすめられた」とか「フェイスブックの広告で知った」といったような受け身の文言が踊ることになる。これは20代に多いが、「ゆるくやっている」と書き、余裕を見せようとする人もいる。また、多くの人が、始めたばかりであることを強調し、「初心者です」とプロフィールに書く。とにかく、自分は「モテないわけではない」し「出会いに飢えているわけでもない」ということを、ところどころに滲ませる女が多い。多分、男もそんな感じなんだろう。
しかし、実際は期待が大きすぎて長期会員になってしまう人間も少なくない(ちなみに、俺が長期会員になっているのは単純にモテないからである)。何しろ、常に新規会員が現れるわけだから、そっちの方も気になってしまう。新規登録した女に対する、男の群がり方は尋常ではない。普通程度の容姿でも、すぐに三ケタ「いいね」がついたりする。
女の被・「いいね」数は、人並みの容姿で、だいたい50~80ぐらいだと思う。あまり容姿に優れていなくても、最低20前後は「いいね」がつく。逆に、男はその5分の1ぐらいか。中にはなんでこんなに「いいね」がついているんだろうと思う女もいるが、謎である。ただ、500以上の「いいね」を貰っていて、特に容姿も良くない場合、それは足跡を付けまくって稼いでいる可能性が高い。俺のところにも全然接点がないのに、何度も足跡をつけてくる女がいて、そういうのはプロフィールを見るとだいたい被・いいねが500を超えているから、「あ、いいね稼ぎか」と思って非表示にしている。こんなところで人気者になってもしょうがないと思うのだが。
短期間しか関係が続かない
まあ、やっぱり「リアル」の関係じゃないから、切るのも切られるのもあっという間ということが多い(ようだ)。吉原の本にも、デートはしたけどすぐにフェイドアウトしたこととか、そもそも待ち合わせ場所に相手が来なかったことなどが書いてある。俺は初めてマッチングした女の子に、どんなメッセージを送って仲を深めればいいんだろうと考えているうちに、一ヶ月以上経ってしまったことがあった。当然、それで終りである。
一度、女の子の方から俺に「いいね」を押してきたことがあった。ペアーズを始めてから三ヶ月目ぐらいの時で、それが俺にとって初めての初・被「いいね」だったから、天にも昇る気持ちで即「イイネ」を返し、メッセージを送ったら、まったく音沙汰がない。彼女のアカウントを見ると、俺に「いいね」をした日から、一度もログインしないまま今日に至っている。多分、俺に「いいね」をした日に、死んだんだろう。
男が入りにくいコミュニティ
マッチング・アプリというのは、前述したように、男が能動的に動く必要がある。なぜなら、女の数が男よりも圧倒的に少ないからだ。それで、一人の女に何人もの男が群がるものだから、必然的に女も待ちの姿勢になるというか、「選ぶ」側として振る舞うことになる。そういう状況下で、女はともかく、男がネガティブなコミュニティに入るのは悪手だと思うのだが、意外に「恋愛経験が少ない」というコミュニティに入っている男が多いにはびっくりした。20代前半、もしくはよほどのイケメンじゃない限り、男がこんなコミュニティに入っていても意味がないんじゃないか? このコミュニティは、「私は軽い人間ではありません」という主張をするためのものなんだから、そこらへんの男が入っていても、「そりゃそうだろ」という感想しか抱かれない気がするのだが。
あと、俺が入りにくいと思うのは、「実はオタク」というコミュニティ。俺自身、どこからどう見ても、オタクにしか見えないから。
コミュニティについて言及したついでに書いておくと、既に「レディオヘッド」のコミュニティがあるのに「Radiohead」というまったく同じコミュニティを作る人は何を考えているんですかね? 一番おかしいのは菊地成孔のコミュニティが「菊地成孔」と「菊池成孔」に分かれていることで、「池」の方に入っている人は注意力が足らないと思う。確かツイッターのネタだったと思うが、菊地成孔という字は全部アナルを連想させる、という覚え方をすると今後間違うことはないだろう。
モテないという負のスパイラル
あらゆる人間にモテたいとは全然思わないけれど、まったく「いいね」がつかないと、必然的にヤバい人にしか見えなくなる。今のところ自分は三ヶ月以上「いいね!5未満」という表示が出続けているのだけれど、常識的に考えてそんな会員と付き合おうと思う女がいるのだろうか? 「こいつ誰もいいね!してないから、近づかんとこ」。そう考えるのが人間というものじゃないのか? 逆に、「いいね!」が多い人は、雪だるま式に増えていくはずだ。こうして恋愛格差は今日も広がっていくのである。
ドット・コム・ラヴァーズ―ネットで出会うアメリカの女と男 (中公新書)
- 作者: 吉原真里
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/06
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