愛甲猛 『球界のぶっちゃけ話』

 印象としては『球界の野良犬』の姉妹編というか、落穂拾いといった感じ。あっちは自伝的な色合いが強かったけど、こっちは球界全体の話になっている。

 例えば、第一章「暗黙のルール」では、ベンチ内における人間関係について触れている。愛甲によれば、選手がどこに座っているか、また誰の近くにいるかで、だいたいの人間関係が把握できるとのことだ。普段のこうした人間関係が、引退後の就職に大きく影響する。中日の大西崇之星野監督時代、乱闘要員として星野からかわいがられた。大西は「いじられキャラ」としても、上の人間からよく好かれ、それが功を奏したのか、現在では巨人の守備・走塁コーチを務めている。初芝西村徳文もそのようなタイプだったとか。逆に、そうした人間関係・派閥付き合いを嫌ったのが、落合だ。ロッテ時代は、有藤と折り合いが悪く、彼が監督になると同時に、中日へトレードされた。優秀かつ自分の主張を強く持っている選手というのは、ある意味で監督にとって、一番の敵となり得る存在だ。かつては、川上哲治と長嶋・王の間にも対立があったというが、年長者が、自分の地位を脅かしそうな存在に対し、抑圧的になるというのはよくあることだ。

 ロッテ時代の話としては、村田兆治についてのものも面白い。村田というのは、ロッテの選手としては榎本喜八に勝るとも劣らない奇人で、自身の投球の際はノーサインで投げていたにもかかわらず(おかげで捕手の袴田はよくパスボールを犯していた)、打たれた時には「なんであんなとこでストレートのサイン出すんじゃ!」と切れたとか。

 本書では、野球選手の日常についても詳しく語っている。例えば、遠征やビジターの時の過ごし方や、球場のロッカールーム、取材事情など。紙媒体はギャラが安いから、大物ほど断るようだ。また、選手同士の子供が結婚することもほとんどないとか。

 こうしたグラウンド内外の裏話が色々と展開されているので、今後プロ野球の人事などについて考えるうえで、この本に書かれているようなことを頭に入れておけば、もっと見方に幅が広がるんじゃないかな。

 最後に一つだけ言っておくと、本書の中で、ヤクルトのキャッチャー大矢が、試合中に審判から「トイレに行きたいから早く終わらせてくれ」というようなことを頼まれ、それを利用し際どいコースを全部ストライクにとってもらい相手を三球三振に仕留めたが、審判の方がイニング終了までもたず、三振後すぐにトイレに駆け込んだという逸話が紹介されているのだが、これはちょっと違う。トイレに駆け込んだ審判というのは、三浦真一郎のことだが、駆け込んだのはイニングが終わってから。また、愛甲の本では、大矢がトイレに駆け込んだ審判に気を使って、放送席のウグイス嬢に「スパイクのヒモが切れた」という嘘のアナウンスを流すように頼んだということになっているが、ウグイス嬢にそう言ったのは、ヤクルトのコーチ丸山完二だ。このことは三浦真一郎がホストを務めた対談本『プロ野球 本当のことだけ喋ろうぜ!!』(リム出版)に書いてあるので、こっちが正しいと思う。細かいことだが一応記しておく。

 

球界のぶっちゃけ話 (宝島SUGOI文庫)

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プロ野球 本当のことだけ喋ろうぜ!!―みんな聞き出しちゃった (LUCKY BOOKS)

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